NO-MA ARCHIVE(ノマ アーカイヴ)

講演
2017.2
「2017 ナント×ジャパンプロジェクト」

パトリック・ギゲール(フランス国立現代美術センターリュー・ユニック館長)

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この文章は、パトリック・ギゲール氏が「アール・ブリュット国際フォーラム2017」(2017年2月11日/びわ湖大津プリンスホテル)で発表された内容をまとめたものです。肩書は講演当時のまま掲載しています。

ナント市、リュー・ユニックについて

日本との関係についてご紹介します。私はミシェル・デヴォーの弟子でした。ミシェル・デヴォーは、ローザンヌのアール・ブリュットコレクションの初代会長でした。その人の下で学んでいました。2007年には、私はアートディレクターとして日本のアール・ブリュットをボーダレス・アートミュージアムNO-MAの展覧会「Outsider Art Photograph Exhibition 東と西の写真家がとらえたアウトサイダー・アート写真展」で紹介しました。NO-MAでは初めて海外と共働した展覧会でした。

私の本拠地ナントはフランスの西部にある町です。1980年代の前半までは造船、食料品と工業の盛んな都市でした。その後工業が衰退したのです。1990年代にナント市は目を覚まし、文化事業でまちおこしを図りました。例えば、ロワイヤル・ド・リュクスという巨人の人形をまちのサイズに合わせてつくり、これが、まちの通りを何日も練り歩くイベントを行いました。他にも、滋賀県でも行われているラ・フォル・ジュルネという世界最大のクラッシック音楽のフェスティバルは20年前から行われています。

ナントの中心にはとても大きなビスケット工場がありました。ナントに入るとビスケットが焼ける匂いがしてくるというぐらい大きな産業でした。その工場跡地につくられたのがリュー・ユニックです。劇場があり、音楽や舞台芸術の場所です。展覧会や見本市も行われ、レストランや本屋もあります。朝から夜遅くまで、遅いときには午前3~4時まで開いています。劇を見たり、食事やバーで1杯やったりということを1年中いつでもできます。幼稚園も託児所もあるし、それからハマムというお風呂のようなところもあります。まちの中にあるまちと言ってもいい場所です。外に出ずここで1日過ごすことができるような場所になっています。リュー・ユニックで取り上げるさまざまな事業では、アートを通じて世の中とは違った世界観を提案したいと思っています。社会的、政治的な問題、あるいは文学や性的少数者についてなど、いろいろな討論会も、作家などを招いて行っています。

アール・ブリュットの定義とは

ナントがアール・ブリュットに関心を持つのは、アール・ブリュットはアートでの定義は何かということを私たちに問い掛けているからだと思います。アール・ブリュットを定義するのはなかなか複雑で、外部の文化的な規範に影響をされていないということだと考えます。現在、アール・ブリュットの作品は、コンテンポラリーアートやモダンアートとのつながりとして広がってきています。リール市のLaMという美術館ではアール・ブリュットの作品をモダンアートの展覧会と一緒に行っています。パリ市のアル・サンピエール美術館では、ポップアートなどもアール・ブリュットの枠の中に広げて展示していますが、私たちリュー・ユニックはそういった定義の問題は少し避けて通っています。私たちは、できるだけ多くのアーティストを含めたいと思っています。重要なことは、障害あるいはマージナリティーではなくて、違った考え方を持っているということです。

ジャン・デュビュッフェがアール・ブリュットを提案したわけですが、そのとき、職業やプロの仕事ではないということを定義していました。彼は自分のコレクションに対して「アール・ブリュット」という名前を付けていたわけですから、そのアール・ブリュットは、彼のコレクション以外に使ってはいけないというのが最初の定義でしたが、今はもっと幅広く使われています。重要なのは独学のアートではなく、全く別の精神世界に生きている人たちがつくる作品であること。それは、異常であるということでなく、例えば詩人と同じように、別の世界があるのだということ。もう一つ重要なことは、それぞれ個人の神話を物質化するという考え方です。自分自身にとってより良い世界をつくるわけであって、万人にとってより良い世界ではない。例えば、環境芸術に関係するある作者は「私が何かをつくるときには、私は私自身をつくっているのだ」と言っています、ですから、作品は作者の鏡、作者を映しているものになります。ですから、つくるだけではなく、何かを集めていくということもあります。

フェスティバル「木漏れ日(KOMOREBI)」

アール・ブリュットで非常に重要なことは、他のアーティストでない人とは違って、すぐ行動に移るわけですね。ジャン・デュビュッフェは、彼らは行動者ばかりだと言っていますが、何があってもやるのだと言う人たちです。それがアール・ブリュット作者たちの特徴だと思います。10年間、日本のアール・ブリュットと付き合ってきました。その間ローザンヌに始まり、アムステルダム、ロンドン、スイスのラガーハウス、ヴェネツィア・ビエンナーレで展示されました。日本のアール・ブリュットはこういった国際的なアートのサーキットに含まれることを示しています。また、滋賀県では、2020年までに県立の美術館でアール・ブリュット専門の展示スペースをつくるということで、素晴しいアイデアだと思います。その後私は2011年に滋賀県の糸賀一雄記念賞第十回音楽祭で総合監督を務めさせていただきましたが、そのときに今回のフェスティバルのアイデアが生まれました。フェスティバルでは、パフォーマーを日本から招待する予定です。長崎市の瑞宝太鼓のグループは、ナントのウィル・ガスリーというミュージシャンと一緒にコラボレーションする予定です。それから、島根県の石見神楽。こういった伝統芸能は、フランスではあまり知られていません。また、滋賀県の湖南ダンスカンパニー。障害者を中心にしたダンスカンパニーです。昨年、クロード・ブリュマションというフランスで非常に有名でナントで活動する振付師がこの湖南ダンスカンパニーと一緒に作品を作りました。こうやってつくられた作品が紹介される予定です。

このフェスティバルには「木漏れ日(KOMOREBI)」というタイトルを付けました。「木漏れ日」に対応するようなフランス語や英語はありません。しかし、私たちはこの「木漏れ日」というのは非常に知的な概念だと思いました。もう完ぺきさを追求することはやめよう。実際の光は、割れ目、あるいは穴から見えてくるのだから。こういう隙間があるような人の方が光を通す、物がよく見えるのではないかということで、このタイトルを選びました。

フェスティバル全体的のタイトルは「木漏れ日」ですが、それぞれの考え方に基づいて4つに分けようと思います。一つ目はポップカルチャーです。特に、日本のアウトサイダーアートの中ではポップカルチャーに属している人が多いと聞きました。アニメ、漫画、映画をテーマにしたいろいろなものをつくる人物。第2のテーマは都市。第3のテーマは、個人的なルールに基づいて見直した世界ということで、順番づけや分類、あるいは表のようになっているもの。私たちには謎めいて見えますが、それと同時にポエティックです。グラフィズムとしては非常に美しく、インパクトのある作品になっています。非常に主観的ですが、受け入れやすい作品だと思います。最後4つ目のテーマは内側の光景、親密な光景。新しい親密性の提案をしている作品。それから、もっと明示的な作品で、もっと生な作品、例えば魲万里絵さんの作品です。特に日本ではよく知られている作品です。4つのテーマでは、最近になって発掘された作品も展示したいと考えています。私は、この一つの展覧会の中で皆さんに旅をしていただきたいと思っています。それぞれ特異性が違っても、新しい考え方、これまでとは違った考え方を私たちに提案してくる。アール・ブリュットだけではなくて、一般的なアートの境界はどこかということを、もう一度考えていただきたいと思います。皆さん、ぜひ、今年の10月にナントへおいでください。

リュー・ユニック外観

出典:『アール・ブリュット魅力発信事業報告書』(2017年3月31日発行)
平成28年度 文化庁 地域の核となる美術館・歴史博物館支援事業

パトリック・ギゲール Patrick Gyger
フランス国立現代美術センターリュー・ユニック館長
歴史家、作家、学芸員。1999年から2010年にかけ、「ユートピア」をテーマにした人間の文化・芸術をコレクションしている、「メゾン・デ・リュール」(空想科学博物館・スイス)の館長を務める。展覧会やイベントの企画はもちろん、美術評論・研究・出版を幅広く行っている。2011年より、フランス、ナント市の国立現代芸術センター「リュー・ユニック」の館長を務め、2017年に行われるナント市と日本の文化芸術国際交流事業の主催者の一人である。
(プロフィールは講演当時のまま掲載しています)

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