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川上建次さん

作品調査

川上 建次KAWAKAMI Kenji

1953 –2022年 三重県出身

川上作品01
《いじめられっ子キーピー》

2013年 1303×1620 キャンバスに油彩

川上作品02
《KAZMAX》

2006年 1160×910 キャンバスに油彩

川上作品03
《人造人間キカイダー》(絶筆)

2022年 910×726 キャンバスに油彩

川上作品04

落書きされたレコードジャケット

川上作品05

落書きされたレコードジャケット

※以下の文章は、「滋賀県アール・ブリュット全国作品調査研究」令和4年度報告書から抜粋したものです。

 不自由な体で油絵を描き、絵の具をなん度もキャンバスに塗り重ねる。筆致は力強く、豪快。出来上がった作品を見ていると、真上から斧を振り下ろされたかのような衝撃を受ける。
 川上の描くものは、バケモノや怪物、幽霊たち。それにレインボーマンや仮面ライダーといったヒーロー、さらに身近な知人、友人である。
 川上は、恐ろしくてグロテスクなイメージに何故か惹かれる。眼を大きく見開く怪人、牙を剥き、威嚇する幽霊。それが集団になって襲ってくる。額から血を流すプロレスラーや、今にも泣き出しそうな流血の友人・雄也くん、高速で屈伸を繰り返す一真くんこと、カズマックス……。ちなみにカズマックスは川上が弟のように可愛がっていた友人である。
 こんな具合に、友人から怪物まで、幻想も現実も入り乱れて、鬼気迫る恐怖を描き出してきた。
 これらの場面は、劇的なのだが、しかし、どこか物語的である。例えると秋田のナマハゲや桃太郎に登場する鬼のように空想的である。登場人物たちはまるで芝居でもしているかのように、戦いに明け暮れる怪物達を演じている。何かの劇の一場面である。
 単独で登場する人物は、頻繁に両手を上げて登場する。まるで銃でも突きつけられた人物のように手を上げていている。定型化された両手を上げたポーズは、『流血雄也』や『KAZMAX』など、数多くの人物像で採用されている。
 色彩については、暖色系に特徴があり、中でも血のように濃い赤は川上の絵に頻繁に登場する色だ。鮮烈な赤は、額から吹き出す血飛沫にも、また体全体を染める色としても使用されており、川上の感情を反映して象徴的な意味を持っている。赤は緊急時の感情や恐怖を表現しているのだろう。
 川上は、1953年11月に三重県松阪市で生まれた。半年後に40度の高熱で通院し、一年後に脳性麻痺が判明した。四肢機能
障害と言語機能喪失となった。小学校には4年生ごろまで通っていたが、当時は就学の義務がなかったようで、以降は自宅で過ごしている。「就学猶予」という名目らしい。養護学校を受験するも不合格となり、以後は在宅で過ごした。川上は、好きなテレビを見たり、猫と戯れたり、通院するといった日々の中、画用紙に絵を描いたり、レコードジャケットに絵を描いたりした。この頃は歌謡曲全盛期であり、レコードを数多く集めている。お気に入りのレコードジャケットには落書きもある。
 1997年、43歳から希望の園に通い始めた。はじめは、お母さんの姿が見えないと大泣きしていたらしいが、やがて慣れていき、楽しくなっていった。絵画制作も本格化していく。
 アクリル絵の具のような腰のある絵の具が好きなようで、絵の具をぐちゃぐちゃしている姿を見て、スタッフが油絵を奨めた。
 2008年ごろから歩けなくなった。急に動きづらくなり、車椅子になる。手を動かすのも大変になるのだが、油絵の制作は盛んになる。今回調査で、見ることのできた一番古い作品は、2009年である。
 調子が悪いと腕が上がらない、動かないので、「描けない! 描けない!」と泣きながら訴えていた。週の初めの月曜日は、体の動きが悪くて、週の終わりになると調子が出てくるという繰り返しだ。絵画制作は、身体運動であり、思考である。調子がいいとレインボーマンやイナズマンのレコードを聴いて、キメのポーズをし、時には、お気に入りのちあきなおみの「喝采」を聞いて号泣する。そういった調子で、喜怒哀楽を表にあらわしながら絵を描いた。
 絵を描けている状態はかなり調子がいいということ。介助者が工夫をして、絵の位置を変えたり、向きを変えたりして、亡くなるまで描き続けた。
 亡くなったのは、2022年3月。体もしんどかった。最後の油彩画は、ギリギリまで描いていたキカイダーの決めポーズである。定番の両手を上げたポーズであり、表情もワイルドさが増していく。(秋元 雄史/東京芸術大学名誉教授【執筆当時】)

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