作品調査
椎原 大智SHIHARA Daichi
1998年生まれ 宮崎県在住
※以下の文章は、「滋賀県アール・ブリュット全国作品調査研究」令和4年度報告書から抜粋したものです。
椎原は宮崎県日向市に生まれ、5歳から宮崎市に住み始める。中学1年のときから絵画療育を目的とした場に通いクレパス画を描きはじめ、現在も月に2回のペースで通っている。2017年に宮崎県立みやざき中央支援学校高等部を卒業する。2019年から地域活動支援センターⅢ型事業所である工房・あわいやに所属し、月に4回ほど通っている。他に、宮崎県西都市にある作業所に通っているが、ここでは制作活動はしていない。
事業所に通い始めた当初はクレパスを多用していたが、当時事業所で60色水性カラーペンを新しく購入したことをきっかけに水性ペンの使用頻度が増える。数種類の紙を常に用意しており、その日の気分で紙を選ぶ。和紙を用いる際は、ざらざらした面を表面にして絵を描くことが多いという。
主に描かれているのは、日本語やアルファベットなどの文字や、丸や四角などの図形である。椎原はテレビの視聴を好み、テレビを見ない時間もテレビ欄を眺めることが多い。そのため椎原の絵には、テレビ番組やテレビ欄から得た文字情報が頻繁に現れる。また、車や自転車、映画のフライヤーの文字、事業所のなかに飾ってある植物など、生活のなかで椎原の視界に入ってきたものが配置されている。
きっちりと輪郭を描き色を塗ることが多いが、荒い筆致でなぐりがきのような模様が現れることもある。まるで、頭の中のイメージが交錯するさまを心地よいコンポジションとして描いているかのようである。
時折画面に現れる棒人間は、両端から押し迫る壁に抵抗するように手を広げたポーズのものが多い。調査の際に、大きく棒人間が描かれた絵を確認した。そこには“ヒーロー”という文字が添えられていた。なお、絵のなかに表記される年号は必ずしも制作年ではない。過去に遡ったり、翌年の年号を書いたりすることが多々ある。
事業所では、2022年から作品を完成直後にホワイトボードに貼り、作品のタイトルを椎原に尋ね、ペンで書いてもらう方法を導入した。それから、椎原は何について描いているかを明記するようになった。どのようなコミュニケーションをとれば、椎原の認識を知ることができるかと、日ごろから工夫されている様子が窺える。
フォント(同一の特徴を持った一揃いの書体)という言葉が相応の几帳面な文字と、なぐり書きの点や線を組み合わせ、鮮やかな色使いで構成する画面には、プリミティブな佇まいと瀟洒なデザイン性が共存している。(青井美保/高鍋町美術館学芸員)