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作品調査

大江 泰喜OE Yasuki

2001年生まれ 愛媛県在住

《アメリカ国会議事堂》

2022年 280×400×200 ダンボール、油性ペン、透明テープ

《東京タワー》

2020年 300×190×195 ダンボール、色紙、油性ペン、透明テープ

図1《原爆ドームの絵付け紙皿》 

2012年頃 55×220~230×220~230 厚紙、油性ペン、アクリル絵具、セロハンテープ

※以下の文章は、「滋賀県アール・ブリュット全国作品調査研究」令和5年度報告書から抜粋したものです。

 大江泰喜は建築物や食器、キャラクターなどをモチーフに段ボールや紙を素材にした立体と絵画を制作している。調査訪問時、自宅の一室に積み上げられた夥しい作品群と、自宅以外の倉庫にも作品を保管しているという話から、彼にとって制作することが生活の一部になっていることが伺えた。この時、大江はEテレを見ながらタブレットで調べ物をしていた。そして時折色紙の裏面に妖怪ウォッチのキャラクターを、タブレットで確認しながら2枚ほど描いた。筆致に迷いはなく、サインペンで輪郭線を描き、マジックではみ出すことなく丁寧に塗りこんでいた。
 実見した立体作品であるアメリカ国会議事堂や東京タワー、スカイツリーは段ボールで細かくパーツごとにつくられ、窓などをマジックで描き透明テープで繋ぎ合わされていた。これらは建築模型として精巧ではないが、線やかたちの歪み、貼り重ねられたテープは、ドローイングのように大江のイメージがそのまま具現化されたような、衒いない素朴な美しさがある。大江のモチーフは先に述べたとおり建築物や食器が多いが、それは原初的な円形への偏執から出発しているという。大江による円形へのこだわりが作品から伺えるのは以下の点である。

① 彼が制作する建築物は上から見ると円の形状があり、食器類も上から見ると円形のものが多い。特に円形建築で知られるローマのコロッセオを何度も制作している。
② 工作の素材にセロファンの芯(円形)やヨーグルトのカップ(円錐形)を度々使用している。
③ 東京タワーなど横から見ると先の方が歪んでいるものがあり、線的な形態には不完全なものがある一方で、円形のものは円弧が閉じられており、彼のこだわりが感じられる。

 家族の話では大江は幼少の頃から円型に関心を示した。円型の皿に興味を持ったことや、円を描くのが得意で先生に褒められたことがあるという。確かに先に見た大江が描いたキャラクターの輪郭線の円は淀みなく綺麗であった。大江は2017年まで広島市に住んでおり、同地の原爆ドーム(旧広島県産業奨励館)に強い関心がある。原爆ドームには象徴的な楕円形ドームが載せられているが、大江が興味を持っているのは原爆ドームの形態であり、被爆前と後の姿の変化である。被爆後は楕円形ドームの壁が無くなり、骨格がむき出しになっている。(図1)は紙で制作されたお皿(これも丸い)に被爆前と後の原爆ドームが描かれている。このふたつの対比は立体作品としても度々制作されてきた。
 大江は生活の中で植木鉢や皿が割れることに敏感であり、破損した器の破片に興味を示し、場合によって復元を試みることや、破片を素材にした制作をするのだという。こうしたエピソードと原爆ドームのビフォア/アフターへの関心を鑑みると、大江は完成された円/円環に美的な関心があると考えられる。
 大江は2001年に広島市で生まれ、小学校6年生頃から市内にある「ボーダレスアートスペースHAP」で、現在に通じる身近な素材で創作活動を始めた。それから程なくして、アートスペースを通じてアーティスト集団Chim↑Pomと知り合い、メンバーの卯城竜太に見出され、2016年にChim↑Pomのキュレーションによる企画展『大江泰喜・会田誠「原爆が 落ちる前 落ちた後」』がGarter @キタコレビル(高円寺)で開催され注目された。
 現在は愛媛県新居浜市に転居し、西条市の就労継続支援B型作業所に通っている。近年では定期的に地域で展示を行い、作品の販売や、企業へのデザイン提供、マルシェにて公開制作を行うなど、大江の制作は地域を軸に広がりつつある。作品を見られること、褒められることに好意的であるという大江を家族や周りの人々も応援し、次々に制作される作品を楽しみにしている。一方で、家族は増え続けていく作品の保管管理と、作品を社会の中で循環できる仕組みを模索している。(今泉岳大/岡崎市美術博物館学芸員)

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