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記富久さん

作品調査

記 富久KI Tomihisa

1967年生まれ 鹿児島県在住

記富久さん
現在、車椅子に乗りながらも力強く小槌を振るう記さん

記富久さん作品
《青山さん》

2011年 h350×w270×d170 木、水性ペン

記富久さん作品
《コアラ》

2012年 h490×w250×d250 木、水性ペン

記富久さん作品
《兄》

2020年 h570×w110×d120 木、水性ペン

※以下の文章は、「滋賀県アール・ブリュット全国作品調査研究」令和6年度報告書から抜粋したものです。

 記さんは立体作品を制作する。素材は木であり、その材木の中には記さんが制作するしょうぶ学園の庭にかつて生えていたものもある。それは施設にとっては思い出の木なのであるが、施設の都合で切り倒した後、それを今度は作品の材料にして、彫刻を制作してきた。
 つくり方は本格的で、彫刻刀やノミを使い、結構なサイズの丸太を削っていく。万力で固定した木を、位置を変えながら、どんどんと彫り進めていく。相当な作業量であり、かつ相当に時間も要する。まずはその体力に驚くし、根気に驚く。なぜこんなに作業に手馴れているかというと、記さんが普段制作する木工工房では、椀や箸、スプーンやフォークなどの木製カトラリーを制作しているからである。最後は漆を使うという本格的なものだ。そこで木工作業をしてきた記さんにとっては、ノミの扱いなどは朝飯前なのである。
 しょうぶ学園は、創設以来、ものづくりを障害者支援の柱にしてきた。木工工房以外にも、陶芸、織や縫、絵画造形、音楽活動などができる。各工房棟があり、ゆったりした敷地でアートとクラフトを柱に幅広い創作活動をしてきた。記さんもそこで本格的に木彫を続けてきたというわけである。
 今回調査のために久しぶりにしょうぶ学園を訪ねた。少々体をこわしていて車椅子暮らしであった記さんであったが、それでもせっかく来てくれたのだからと、久しぶりにノミを持って木材を削ってくれてた。
 さて、記さんの彫刻について説明したい。制作する主題はというと人物である。それも身近な人々が対象で、しょうぶ学園の職員の皆さんや友人などで、それぞれの姿は胸から上の胸像形式が多い。なかなか愛嬌のある表情で、それぞれの特徴を捉えて、愛らしく佇んでいる。表情はどこか誇張した造形で、アイロニカルな雰囲気が漂うが、決してネガティブなものではない。むしろユーモラスな表現といった方が正しいだろう。
 造形と色彩に特徴がある。丸太を丸彫りする凹凸の作り方が特徴で、実際の顔の凸凹と時折造形が逆になる。例えば出っ張っているはずの鼻や顔が、凹みとして表現される。これは言葉で説明すると伝わりづらいのだが、実際に見ると特徴的な造形になっている。案外複雑な形状で主に顔に通常の凸凹と逆の姿で凸凹が生まれる。ある意味では騙し絵的な効果も手伝って、時に立体でありながら絵画的な魅力を讃えているのである。
 それは表面に塗られた色彩によってさらに強調されている。赤や青、緑、ピンクや黄色など、彩度の強い色彩が明快な対比を伴いつつ、彫刻全体に施されている。なんともおおらかで人間的な造形なのであろうか。私は記さんの作品を見ていると気持ちがほぐれていき、ゆったりとした気分になる。それほど大きな木彫である。(秋元雄史/東京芸術大学名誉教授)

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