
作品調査
山本 佳治YAMAMOTO Yoshiharu
1974年生まれ 広島県在住
※以下の文章は、「滋賀県アール・ブリュット全国作品調査研究」令和6年度報告書から抜粋したものです。
駅から車で15分ほど、山の中腹にある福祉施設に山本佳治は通所している。瀬戸内海を望むことができる一室で、山本は頬杖をついてのんびりと横になっていた。
1974年に福岡で生まれた山本は、父親の仕事の都合で神戸、岡山、横浜などを転々とし、二十歳を迎える頃、広島県福山市に住まいを移し、現在に至る。幼い頃からリカちゃん人形が好きだったという山本は、母親と歯医者に行った帰りにご褒美として人形を買ってもらうことが多かったそうだ。主にボールペンを用いてリカちゃん人形の絵を描くこともあったようだが、ぐるぐると描かれたそれは、リカちゃん人形であると判別するのは難しい。
福山への転居を境に、山本は自宅でリカちゃん人形の頭髪の植え替えをこっそりと行うようになった。その作業は、人形の頭部を切り、髪を抜いた後にカラフルな糸を自身の手で縫い付けていくという順番で行われる。
2024年現在は、その行為は行われなくなった。ただし、山本は以前より、靴下などの自身の衣類に糸を縫い付けるという営みを行なっており、それは今でも続いている。主に破れた箇所を補修するように行われるその行為は、リカちゃん人形に行なっていた縫い付けの行為と似ている。縫い付けられて数センチほど表に出た糸をカットすることを繰り返し、穴はカラフルな糸によって彩られていく。縫い付けられることで、靴下などは使用できなくなってしまうものも多いようだが、補修のために行なっているというよりは、糸で布地を縫うことそのものを楽しんでいるようでもあった。
また、以前はその営みと並行して、雑誌や小説、自身で描いた絵などを芯にして、セロハンテープをぐるぐると巻きつけていく行為も行なっていた。厚いものでは7cm程度になるまでその行為を繰り返す。また、セロハンテープの巻芯に貼られている紙を剥がして切り刻み、ぐるぐる巻きにしたセロハンテープの中に一緒に封入していくことも特徴である。作品の中には本のページのようにめくることができるような構造になっているものもあるが、セロハンテープの厚みでそれをめくることは難しい。表面には養生テープで平面的な造形が行われていたりするだけでなく、中に封じ込められた巻芯の破片が透明なセロハンテープごしに視認できるため、全体としては複雑なレイヤー構造を持つ。
これらの行為はどちらも対象に対する愛着から行われているのだろう。横になっていた山本は、刺繍をするためにゆっくりと体を起こしてテーブルに向かう。糸を選び、一針一針糸を縫い付けていく彼は、誰も立ち入ることができないほど、恍惚とした眼差しで縫い付けられた糸を見つめていた。(寺岡海/アーティスト)