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向山さんの顔写真

作品調査

向山 政則MUKAIYAMA Masanori

1974年生まれ 長野県在住

展示ブースの写真
向山のブース

移動する向山の様子の写真
移動する向山の様子

自室にある時計の写真
自室の時計

ブースの壁の写真
ブースの壁

携行するカバンの中身の写真
携行するカバンの中身

カバンに入っている辞書の写真
カバンの中の辞書

カバンに入っているノートの写真
カバンの中のノート

※以下の文章は、「滋賀県アール・ブリュット全国作品調査研究」令和6年度報告書から抜粋したものです。

 向山政則は、長野県駒ヶ根市の「西駒郷」という障害者支援施設で生活している。木曽山脈に隣接する山間部に位置するこの施設は、広大な敷地に立ち並ぶ複数の建物からなり、多様な障害者支援サービスを提供している。施設内で日中活動時間に所属する支援室には、パーテションで区切られた向山専用のブースがある。そのブースの壁面には、トランプ、写真、新聞の切り抜きが隙間なく貼られている。よく観察すると、その並びがトピックの類似性や数列などに基づいていることに気づくだろう。
 また、その装いも独特で、調査時、彼は両腕にそれぞれ3本ずつ、計6本の腕時計を着け、衣服のポケットを複数セットのトランプで膨らませていた。移動には、自分の関心のある単語にマーキングした広辞苑などの本が詰まった旅行カバンを持ち運ぶ。あるいは、生活する寮内の自室空間にも彼の集めた大量のものが、あのブースのように所せましと配置されている。向山は、一体何をしているのか。本稿では「収集」と「編集」という2つの過程に分けて、向山の活動について分析を試みる。
 まず、「収集」について、彼の収集対象の内、代表的なものを次の六つに分類する。①トランプ、②将棋・囲碁関連:駒、盤、関連書籍、③時計関連:腕時計、置き時計、新聞の広告記事、④新聞の天気予報図、⑤ヒーロー戦隊もの:主に雑誌、⑥歴史上の人物(主に音楽家)に関する資料:書籍や新聞の切り抜きなど、である。向山はこれらの収集物の供給源を大きく三つ確保している。一つ目は、月一回の外出で訪れる近隣のショッピングセンターで、彼は毎回トランプや将棋、囲碁の専門誌を、また必要に応じて将棋盤、腕時計、ヒーロー戦隊関係の書籍などを購入する。二つ目は定期購読する新聞で、これは切り抜きの材料となる。三つ目は実家で、一時帰宅後に施設に戻る際に材料を持参することがある。
 次に「編集」について。例えば、彼の自室のごく一般的な置き時計には、雑誌から切り抜いたロレックスのロゴが貼られている。そこはかとないユーモアの感覚とともに、異なる事象同士を、ある種の意図の下で結ぶ、編集的な手つきがそこに透けて見える。雑然としたブースの壁もそうだ。自らの写真や関心事を示す雑誌の切り抜きといった個人的な情報と、トランプやカレンダーといった数列的規則性を持つものは縦横無尽に張り巡らされ、万人が理解できるような明快なコンテクストは浮かび上がってこないかもしれない。しかし、じっくりと対面した者は(筆者がそうであったように)、向山という人間の確かな生存がここに編み込まれていることを感じ取ることだろう。そして、関心のある事物を集め(供給源を確保し)、類似性や意味のネットワークと戯れつつ巧みに編み合わせるその活動を、仮に「表現」と呼ぶならば、彼の表現はブースの壁面から自らの身体、そしてカバンの中まで、暮らしの隅々に染み渡り、向山という人間と不可分である。西駒郷という空間において、向山は局所的な小宇宙のようである。計り知れない秩序と、施設全体に漂う穏やかな雰囲気の虚を衝く油断ならない鋭さが、そこにある。(山田創/滋賀県立美術館学芸員)

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