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田中寿之

作品調査

田中 寿之TANAKA Hisayuki

1981年生まれ 宮崎県在住

《たてもの》
《たてもの》

制作年不明 紙、ペン 177×248(1枚あたり)

《たてもの》
《たてもの》

制作年不明 紙、ペン 177×248(1枚あたり)

《たべもの》
《たべもの》

制作年不明 紙、ペン アルバム外寸:336×336、紙:およそ104×145

※以下の文章は、滋賀県アール・ブリュット全国作品調査研究令和7年度報告書から抜粋したものです。

 田中は月曜日の午前と火曜日から金曜日まで、社会福祉法人風舎の就労継続支援B型に通所している。敷地内にあるパン屋の材料のカットや、製造機器の清掃、椎茸の実切り作業などを行いながら過ごす。月曜日の午後のみ、多機能型事業所スマイルホーム360を利用。田中は、自由時間に絵を描くスタイルであるため、主に「スマイルホーム」での自由時間に作品は生み出される。大きい声や予測できない動きをする人や生き物が苦手なため、絵を描くことは、それらとの距離をとることにも役立っている。制作は田中に安心をもたらすのである。
 描かれる対象は建物、道路、食べ物、生活用品など、身近にあるものが多い。特に繰り返し描かれるのは、「風舎とみたか」の外観で、三角屋根の印象的な建物を同じ角度で描く。印象的な三角屋根はそのままに、作品ごとに窓や扉の構図を少しずつ変えている様子がうかがえる。紙にこだわりがあり、あまり厚い紙は好まない。片面が印刷済の再利用紙や、薄めの紙を選び、それを自ら好みのサイズにハサミで切って制作に取り組む。
 田中の絵には直線そのものに魅力がある。カラーの単色と黒色の2色のみで表現されることが多いが、にも関わらず、すべての面が密集した線によるものなので、田中の筆致と筆圧によって作品ごとのトーンが変わってくる。たて、たて、よこ、よこ、とブロックごとに線で埋め尽くされ、画面の密度が上がっていく。本来であれば空が広がる建物の背景部分には、ボーダー上の太い線が広がっており、さらに紙の淵に沿って、上下の余白が鏡合わせのように、同じだけ確保されている。しかし紙を自身で切っている状況を勘案すれば、この余白は田中の当初の想定から存在していたことが考えられる。ほとんどの作品には数字とTHのアルファベット、そして田中のフルネームが明記されている。THの意味を質問したところ「周年」という意味なのだそうだが、その意図は不明である。
 また、食べ物を描いた絵にも個性が光る。ラーメン、うどん、かき氷。これらは食べたものの記録なのではなく、田中が想像して、あるいは記憶を頼りにして、描いたものでる。特にキムチラーメンは特徴的で、真っ赤なスープにチャーシューやネギや玉子が四角や丸といった図形に簡略化され描かれている。ざるうどんでは、麺を表現した横の線が規則的に繰り返し並んでいて、そのびっしりとした異様な光景は鑑賞者の視線を釘付けにさせる。
 ここまでの調査から、田中は規則性に対する愛着を持っており、目の前にあるものを紙のうえで心地よいリズムへと変換させていることが伝わってくる。装飾的ではないにも関わらず、作家の個性が確固として存在するのは、反復の必然性と生活の温度の絶妙なバランスによるものだろう。

(青井美保 / 高鍋町美術館(宮崎県)学芸員)

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