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荒木聖憲さん

作品調査

荒木 聖憲ARAKI Minori

1994年生まれ 熊本県在住

荒木作品01
図1 《四季彩の楽園》

©アール・ブリュット パートナーズ熊本
2018年 1240×2050 紙、折り紙

荒木作品02
図2 《星月夜の歌姫》 

©アール・ブリュット パートナーズ熊本
2020年 1300×2000 紙、折り紙

荒木作品03
図3 《玉名大俵まつり》

2019年 550×765 紙、折り紙

荒木作品04
図4 《天草湯島の猫》 

2019年 630×880 紙、折り紙

荒木作品05
図5 《星空のペガサス》 

2019年 765×550 紙、折り紙

※以下の文章は、「滋賀県アール・ブリュット全国作品調査研究」令和4年度報告書から抜粋したものです。

圧倒的熱意
 子ども時代、心ときめかせながら、世界と出会う。それは誰にでも、起こりうる。けれどもそれがその後の人生の肝になっていくことは、そう多くはない。荒木さんは13歳の時に、山下清のテレビドラマを観て「ちぎり絵」に魅せられ、みずから制作するようになった。現在28歳。人生の半分以上の年月をちぎり絵に打ち込んできた。平日は会社勤めのあとに、休みの日にはほぼ終日制作している。睡眠時間を削り、時には徹夜もした。色紙を数ミリ四方に満たない紙片に千切りだし、それを丹念に貼り付けていく制作は、熱意と集中力と時間を要する。
 2014年、山下清巡回展を観た。その色と遠近法に感動した。荒木さんはその時既に様々なちぎり絵の技法を開発していた。その一つが色紙を細く長くちぎってこよりを作るというもの。山下作品にもその技法が使われているのを見て心躍った。現在、こよりづくりはすでに身体に沁み込み、お話をお聞きした時も、まなざしは筆者に向けたまま、手は着々と糸状の色紙をちぎりだしていた。こよりは、毛髪などの質感を出すためにそのまま貼り付けるだけでなく、編みこんで綱などの質感をだす。その他にも、色紙の表面を裏面から引きはがして透明感を醸し出す技法、糊の塗り方によって光沢やガラスのような質感を出す技法などを開発してきた。一枚にしか見えない色紙の表裏を引きはがすことは、日々ちぎり絵に打ち込まない限り、思いつかない。
 荒木さんは、絵心をとても大切にする。これまで生み出してきたさまざまな技法はすべて、絵心を顕わすためのものだ。それをどのようなイメージや構図で顕わすかについても熟考を重ねてきた。「写真のような写実的な作品制作は、音楽で言えば演奏家のもの。ちぎり絵は、作曲し譜面を書くようなもの」と考え、制作に挑んでいる。その精神がもっとも明確に顕れているのが、1m余×2mの超大作『四季彩の楽園』(図1)と『星月夜の歌姫』(図2)だ。前者は、ちぎり絵制作開始10周年を記念する作品であり、2017年から2018年18カ月3600時間をかけたそうだ。テーマは、現実世界ではなかなか実現の難しい、「描いたように、マイナスの現実をプラスに変える発想を彼から学んだという。中央にはおばあさんと動物たちが穏やかな時間を過ごし、四方には四季折々の植物が配され、独特の遠近法が絵に躍動感をもたらしている。『星月夜の歌姫』は、2019年から2020年に、『玉名の大俵まつり』『天草湯島の猫』『星空のペガサス』(図3,4,5)の三作と並行して制作した。テーマは、「平和と幸せ」に劣らないよう、「夢」にした。「この作品にはメッセージ性を込めた。黄金比を中心にした構図にしようと思った。真ん中にはだまし絵のような胎児。僕は作品の四方角にメインの形を置く。右下の女性は歌姫。表面だけの女性にならないよう、骨、筋肉、皮膚、着衣という風に作り重ねた。葛飾北斎の波やゴッホの星月夜を参考にした。貧富の差、トランプ政権下の民族差別、2018年の相模原の施設で起こった事件が端的に示しているような障害者差別に対する風刺もこめている。」と荒木さんは語る。
 制作した作品は既に100点に及ぶ。いずれにも、絵心と哲学と思想がこめられ、それを日々切磋琢磨してきた技法が支えている。離れて見ると全体のイメージに、近づいてみると表現への熱意に、圧倒される。(青木 惠理子/龍谷大学名誉教授)

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