作品調査
袋田病院アートフェスタFukuroda Hospital Art Festa
2013年から開催 茨城県 (作品調査ではこれまで、主に個人を対象とするのが通例だったが、「袋田病院アートフェスタ」に おいては、多様な共同作品が生まれていることを踏まえ、この活動を軸とした構成とする)
※以下の文章は、「滋賀県アール・ブリュット全国作品調査研究」令和5年度報告書から抜粋したものです。
茨城県久慈郡大子町に袋田病院という精神科病院がある。長年、数々のアート活動を展開してきた袋田病院では、「精神科医療の歴史を振り返り、明日の生き方を問う」をテーマとして、2013年から年に一度、「袋田病院アートフェスタ」(主催:医療法人直志会袋田病院アートフェスタ実行委員会)を開催している。そこでは、昭和の時代背景が色濃く残る鉄格子型の隔離室(現在は未使用)や、外来の待合室、診察室などをあえて展示場所とし、患者やデイケア利用者の作品展示をはじめ、病院職員や滞在アーティストが関わるコラボ企画やインスタレーションを公開。
その他にもワークショップやライブ、物販などさまざまなプログラムを実施し、地域に開くことで、精神科医療の歴史や課題をみんなで共有し、これからの医療や生きるための重要な問いを投げかけている。多様な人たちが主体となるアートフェスタは、アートを介し創造的プラットホームを育む社会実践といえる。
以下、一部ではあるが、過去にアートフェスタで展示された多様な共同による作品を紹介する。
・ヒロシさん&足湯・マッサージ
2010年からデイケアに通所するヒロシさんは、他のメンバーが描いた絵をもとにした版画作品を制作する。長年、頭のなかで鳴る“こびと”の声に悩まされてきたというヒロシさんは、「彫っている時は落ち着く」として彫刻刀を握り、これまで約200枚の版画を作り続けてきた。2015年、2016年のアートフェスタでは、ヒロシさんの制作と普段デイケアで行っているフットケアプログラムの融合が実現。足湯やフットマッサージでゆったりとした気分に浸りながら、それを取り囲むように展示された120種類もの版画を鑑賞するという、斬新な空間が創出された。
・霊安室プロジェクト
霊安室の壁面をさまざまな形の欠片で覆うこのプロジェクトは、アートフェスタのディレクションを務めるアーティスト・上原耕生が制作するインスタレーションだ。2011年に病院の依頼を受け着想を開始し、職員との対話や検討を重ね、2021年のアートフェスタからその途中経過を公開している。作品の素材となる瀬戸物やタイルは、患者や職員の家庭で眠っていたもの。上原はそれらを砕いて角を取り、タイル職人の経験を持ちデイケアを利用する安さんと一緒に、今も貼り付け作業を行っている。一つひとつのパーツは、病院に関わる人たち一人ひとりの想いの欠片なのだろうか。それらをパズルのように組み合わせる途方もない制作はまるで、かけがえのない想いがずっとあり続けるための祈りのようだ。(横井悠/ボーダレス・アートミュージアムNO-MA学芸員【執筆当時】)