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作品調査

後藤 拓也GOTO Takuya

1987年生まれ 宮崎県在住

後藤拓也さん作品
《いえ》

2014年 w370×h233×d243 段ボール、紙、ホチキス、両面テープ

後藤拓也さん作品
《いえ》

2014年 w496×h523×d440 段ボール、紙、ホチキス、両面テープ、透明シート

《いえ》

2014年 w302×h437×d189 段ボール、紙、ホチキス、両面テープ、透明シート

後藤拓也さん作品
《いえ》

2024年(未完成) ※オレンジ・ベージュ w529×d437 段ボール、紙、ホチキス、両面テープ、透明シート、メタルタイルシール

※以下の文章は、「滋賀県アール・ブリュット全国作品調査研究」令和6年度報告書から抜粋したものです。

 後藤の《いえ》づくりには複数の発端があったと考えられている。後藤の自宅のベランダをリフォームする話が挙がったこと、その時期に「大改造!!劇的ビフォーアフター」(テレビ朝日系)というテレビ番組を見るようになったこと、さらに、後藤はこの時期から朝夕電車での移動を始めており、家々が建てられていく経過を車窓から眺めていたことである。
 後藤が《いえ》を制作する時間は、通所している福祉施設「風舎」の昼食後の約15分間のみである。日中は清掃や庭木の手入れ、看板づくりなどの作業を行っており、職員から日中の制作を選択肢として提示されても後藤は首を縦に振らない。後藤にとって、作業が仕事(就業時間にするもの)であり、《いえ》づくりは趣味(休憩時間にするもの)という認識がある様子だ。
 毎日の制作の始まりと終わりは、自身のルールで決まっている。誰も制作を促さないし、制作中に誰かが後藤に声を掛けることはない。隣で他の利用者が昼食をとっているだけである。
 同じように、《いえ》づくりも突然完成する。後藤は完成と判断したら、その《いえ》には二度と手を付けない。ある日突然、1~2年制作してきた《いえ》は完成し、その日のうちに新しい《いえ》の図面に着手する。
 初期作品は、骨組み・壁・屋根が同じ素材(オレンジ色の薄手の色画用紙)である。4点ほど制作したのち、壁や屋根については色の幅が増し、厚みのある紙へと変化した。最新作では床面に、①図面の書かれた紙、②断熱材のような素材、③初期から使用しているオレンジ色の紙、④フローリング柄のシートの四層の素材が敷き詰められている。
 制作手順は初期から概ね変わりない。板状の段ボールに図面を引き、仕切り部分に高さ1cmほどの図面の線に沿った結界を張り巡らせる。これは、新築工事でいうところの型枠という作業に類似する。型枠に棒状の巻き紙をつなげて骨組みをつくる。屋根と外壁が取り付けられる。接着に使用するのは両面テープとホチキスである。
 作品の多くは、意図的に屋根の一部を覆っていない。これによって、完成後も作品の内側(床面や骨組み)を覗き込むことができる。同様に、《いえ》には透明シートを用いた覗き窓が複数設けられる。覗き窓は外壁だけにとどまらず、屋根にも存在する。これは《いえ》が、覗くことを意識した表現であることを物語っている。
 近年は2階建て型に取り組み、現在は初期のような平屋型へと戻ったが、《いえ》のサイズは徐々に大きくなっている。《いえ》の上部は計画よりも大きくなるため、まるで花のつぼみが膨らむような形状である。これは、床面→骨組み→壁面と、部分ごとの完成を繰り返す独自の手法によるところが大きい。全体を俯瞰し構成しているというよりも、むしろ立体的な編み物を端から順に編み上げているといった精緻さがある。床も壁も、さざ波のようなリズムがあり、びっしりと張りめぐらされたホチキスは魚のうろこのようにキラキラと光る。そのリズムは無機質なはずの《いえ》に、生命の気配を漂わせている。(青井美保/高鍋町美術館学芸員)

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