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松下高徳さん

作品調査

松下 高徳MATSUSHITA Takanori

1947年生まれ 熊本県在住

松下さん初期の作品
初期の作品

松下さん初期の作品
初期の作品

松下さん初期の作品
初期の作品

松下さん現在の作品
現在の作品

松下さん現在の作品
現在の作品

松下さん現在の作品
現在の作品

松下さん現在の作品
現在の作品

※以下の文章は、「滋賀県アール・ブリュット全国作品調査研究」令和6年度報告書から抜粋したものです。

 松下高徳さんは木に釘を打つ。何本も何本も釘を打つ。一面びっしりと釘で埋まる。出来上がった作品は、なみなみならぬ迫力を発揮する。そう感じるのは、私だけではない。Eテレ(NHK)でとりあげられた。『Art toYou!東北障がい者芸術全国公募展』では厚生労働大臣賞を授与された。パリのアル・サン・ピエール美術館長を魅了し、アール・ブリュット・ジャポネ展の候補になった。
 使われているのは50cm程に切った葡萄の木枝だ。蔓性木のうねる形が手足や胴体のように見えたり、生命が宿っているように見えたりすることもあり、松下さんの作品を見て私が思い浮かべたのは全体に釘をびっしりと打ち込まれた人型の木像である。中西部アフリカの人々が作ったンキシと呼ばれる像で、御守りや病気治癒の力を発揮した(注)。現在でも、アフリカ文物やアフリカ・アート作品として、収集、展示される。
 通常、建築や家具製作のためなどに木に釘を打つ。松下さんの作品とンキシの共通点は、木と釘の関係、木に釘が打たれたモノと人間との関係に、こういった「実用性」が介在しないことだ。「藁人形に五寸釘を打つ」という人口に膾炙した呪い物語に典型的に示されるように、生命を想起させるモノに釘を打つ行為は、極端な攻撃性を想起させる。しかし、ンキシにアフリカの人々が願うのは、加護や病気治癒の力だ。笑みを浮かべながら淡々と釘を打つ松下さんの姿は、攻撃性からほど遠い。ンキシに対する願いは語られ、社会に共有されているが、松下さんはひとり釘を打ち、それについて語ることはない。
 彼は1947年生まれ。障害がある彼を、両親は家のなかで大切に育てた。高齢となった両親が体調を崩し、50歳の時彼は初めて家をでて施設で暮らし始めた。やがて、2001年から「しょうぶの里」(同年開設)に暮らすようになった。しょうぶの里は開設当初から、アート活動を通して利用者たちの生活を豊かにすることを目指してきた。利用者一人一人が楽しく過ごし、制作したりしなかったりするなかで現れるカタチを大切にしているという。そのようにして現れるカタチから、その人をより深く感じ、知ることができるとスタッフは述べる。松下さんの「作品」群もそのように現れた。
 入所当初、スタッフたちは、松下さんの好きな制作を模索した。彼にクレヨンを渡すとひたすら塗ったが、好きというわけでもないようだった。家にいたとき彼はお母さんと一緒に犬小屋などを作っていたという話を、ご家族から聞いた。釘を打つことには手慣れているようなので、或る時スタッフが手ごろなサイズの角材と板をいくつかと釘と金槌を渡し、3、40分後に戻ってくると、一枚の板に何十本も釘を打って、角材と板を積み重ねたカタチができていた。板が割れると、それも重ねて、なんの躊躇もなく釘を打って、そこにはスタッフをゾクッとさせるカタチが現れていた。その後、葡萄の木枝を入手できるようになり、現在のようなカタチが現れるようになった。そのカタチには、松下さんが世界と交わる様が、そして、人生の軌跡が宿されているといえるだろう。
 ンキシはしばしば、アフリカのエクゾティックな文物やアートとして消費されてしまい、アフリカの制作者と先進国の観者の間の壁を揺るがぬものにしてしまうことがある。重要なのは、松下さんが現したカタチを、エキゾティックなアートとして消費するのではなく、カタチの力を人に共通する世界や生へと解き放つことだろう。(青木惠理子/龍谷大学名誉教授)

(注) ンキシNkisi https://www.britannica.com/art/nkisi参照。

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