作品調査
清水 千秋SHIMIZU Chiaki
1967年生まれ 滋賀県在住
※以下の文章は、「滋賀県アール・ブリュット全国作品調査研究」令和3年度報告書から抜粋したものです。
真正面から描かれた人物たちは、明るく、皆、活発な印象である。平面的な空間の中で人物たちはそれぞれのキャラクターを演じ、ポーズをとり、こちらを見て、語りかけてくる。
真ん中に一人で立っているものや、何人かで登場するものなど、数や登場人物は絵によって異なっている。
人物たちは、テレビ番組で見かけ、雑誌に載るタレントやアイドル、お笑い芸人たちであり、また工房で目にする画集の中の名画の人物であり、また時にはリアルな世界の中で身近に接している家族や工房スタッフである。
タレントの壇蜜やマツコ・デラックスや香取慎吾と映画のターミネーターやE.T.の中の人物、画集に出てくるピカソの『ゲルニカ』の半ば抽象化した人々や、それに、やまなみ工房の施設長の山下さんやお母さんなどを、同等の力学と、好意と好奇心と熱心さによって制作している。
清水さんから見れば、絵画を制作する上では、テレビや雑誌の画を通して見る人物も目の前にいる人物も同じく愛すべき人々であり、すなわち絵の題材なのである。
雑誌や映画などのメディアを通して知った人であろうが、実際にリアルな世界で接している人であろうが、どちらも清水さんが視界に捉えた大事な人々であることは確かだ。そして清水さんという《私》を中心にして、この人々が集合していき、絵画群を形成していく。
清水さんの好みによって画題として選ばれた人々は、清水さんなりの独特な視点と解釈によって個性的に姿を変えていく。例えば、タレントの壇蜜やマツコ・デラックスは、特徴としている風貌やキャラクターとはだいぶ異なった姿になって登場する。標準的よりもさらに細い体格となったマツコ・デラックスや、逆にプロレスラーばりにガッチリと肩の張った体格となって登場する壇蜜など、本来もっていたキャラクーとは真逆の姿となって絵の中では登場する。この奇妙な逆転、あるいは転換は、こちらの認識のズレを誘う。自分の知っているタレントが、時にユーモラスに、時に辛辣に、イメージを転倒させる。
この奇妙な絵の個性化が清水さんの特徴であり、清水さんの絵画の最大の魅力なのである。
色彩は、総じて明るく、赤、青、緑、黄色などの原色を使用し、彩度や明度が高い。これらの色で、色面分割のような要領で形を作り上げ、一種フォービズム的な色彩表現によって明快な画面を作り出す。
制作方法は、刺繍である。色のついた綿布の上に色糸で刺繍を施す。チェーンステッチという編み込み方で、輪縫いと言われる刺繍の基本ステッチだけを使用して製作していく。絵の具を塗るようにはいかないので、一枚の作品を仕上げるのには相当に時間がかかる。大きいものでは、2年や3年かかったものもある。しかしその画面からは、長い時間が費やされたような間伸びした雰囲気は微塵もない。何か言い切っているような、強く明快な表現があるのみである。近年、また、作風が変化してきた。輪郭がぼやけてきており、色彩にも変化が現れてきている。(秋元雄史/練馬区立美術館館長【執筆当時】)