作品調査
鈴木 健太SUZUKI Kenta
1989年生まれ 宮崎健在住
※以下の文章は、「滋賀県アール・ブリュット全国作品調査研究」令和2年度報告書から抜粋したものです。
日中、共同で生活する空間全体に、鈴木のトンカチを叩く音が響き渡る。玄関口に丸太や工具を広げて地べたに座り込む鈴木に、一緒に過ごすメンバーがかわるがわる声をかける。鈴木もそれに一言、二言応える。一見、日曜大工でもしているかのような光景である。スタッフが通りかかるたびに、入れ替わり丸太を支えてアシストする。
鈴木は、特別支援学校高等部卒業後まもなく、風舎つるまちに通い始めた。自宅で、ブロック塀の朽ちた部分や生い茂るツタに関心を持っていた鈴木。事業所では、屋外に設置されていた木製のベンチの朽ちた部分に関心を持ち、ある日そこをつつくように切り崩しはじめた。スタッフは、木の板や丸太を用意し、その行為を置き換えることを提案した。5年ほど前、26歳のころである。鈴木は木の板をバリバリと剥がすことから始め、やがて丸太をトンカチの釘抜き部分でひっかけるように叩いたり、マイナスドライバーを丸太の側面に当て、柄の部分をトンカチで叩くことで、木の側面を剥がしていくようなスタイルへと変わっていった。ときには丸太の端をのこぎりで切り落とすこともある。どうやら、でこぼこしている面を少しずつ叩き削いでいるようだ。
最近鈴木は、使用する道具にノミを加えた。ノミによって一定のリズムで削られた表面はポール・シニャックの描く水面をクローズアップしたかのように規則的でなめらかだ。ノミによる制作は着手したばかり。鈴木がある程度納得する様子が見られるまでに半年ほどはかかるとのことだ。
施設には複数の丸太が、鈴木に手を加えられるために用意されている。鈴木は二つほどの限られた丸太に「今はこの木に取りかかっている」という意識を持っている様子である。制作は週に2~3日で、1日30分のときもあれば、3時間以上頭しているときもある。そうまでして手掛けた丸太は、往々にして最終的に木くずとなる。すべて木くずとなったとき、鈴木はその作業を終えて、木くずは廃棄され次の切り株に移る。つまり鈴木自身にとっての完成は、丸太の存在が無に到達したときなのである。写真にある作品は完成形ではなく、鈴木にとってはあくまでも途中経過ということになる。数年前からスタッフは、「途中のものを借りる」形で、作品を展示し始めた。半年ほどかけて、鈴木が手掛け続けた丸太は、木としてのフォルムが大きく変えられることはない。しかし、毛羽立った肌を纏い、何者かの手が加えられたことが明らかに見てとれる。そうした共存する対極の要素によって、鈴木の作品は異質な雰囲気を漂わせる。トンカチを手にする鈴木の表情は、何かを作っている自信に満ちている。人間は何かを作り続けているのだろうか、それとも切り崩し続けているのだろうか。鈴木の作品は、自然物に人が手を加えるという事象、人が何かを作る意味、そうした根源的なことを問うてくる。(青井美保/高鍋町美術館学芸員)