NO-MA ARCHIVE(ノマ アーカイヴ)

作品調査

吉田 美鈴YOSHIDA Misuzu

1977生まれ 宮崎県在住

《2匹のネコ》 

2017年 380×270 画用紙、鉛筆、油性ペン、クレパス、アクリル絵の具

《冬のネコ》

2020年 380×270 画用紙、鉛筆、油性ペン、クレパス、アクリル絵の具

《ご飯とみそ汁》

2020年 380×270 画用紙、鉛筆、油性ペン、クレパス、アクリル絵の具

《ゆうたろうさん》

2021年 380×270 画用紙、鉛筆、油性ペン、クレパス、アクリル絵の具

制作風景

※以下の文章は、「滋賀県アール・ブリュット全国作品調査研究」令和4年度報告書から抜粋したものです。

 吉田は宮崎県都農町に生まれ、1996年に宮崎県立宮崎養護学校を卒業する。同年、宮崎県日向市にある社会福祉法人浩和会白浜学園に入所し、それ以来この施設で生活している。施設では、ウォーキング、室内活動(刺繍)、チラシの配達、音楽活動、絵画制作などのなかから活動を選ぶことができ、吉田は月2回ほど絵画制作に取り組んでいる。制作する場所は施設から歩いて10分ほど離れたアトリエで、施設の入所者や利用者が利用するためのものである。吉田の制作は、自身でモチーフ(写真の切り抜きであることが多い)を選び、それを見ながら絵を描いていくスタイルである。アトリエには様々な画材が用意されており、自由に使用することができる。
 吉田は用意されたイーゼルに、画板を設置し、画用紙をテープで貼り、絵を描いていく。初めは鉛筆でモチーフの輪郭を描く。線の一部分を消しゴムでこすり、画面の一部は摩擦による灰色の面ができる。次に黒色の太い油性ペンで、鉛筆で描いた部分以外の輪郭を描く。描き始めは、よくモチーフに視線を落としているが、油性ペンになるとモチーフを見る頻度は減少する。メインのモチーフとなるものをクレパスで着色する。着色することで生まれるクレパスの屑を、両手で払い落とすような仕草を繰り返す。色の面はなめらかになり、輪郭の外まで色のかすれがはみ出て、画中の輪郭は曖昧になる。アクリル絵の具で背景を塗る。絵の具を複数色、パレットに出す。筆をつかってたっぷりと水をパレットに載せる。豪快にすべての色を混ぜ合わせる。出来上がった混色を筆につけ、背景をその色で埋めていく。背景の色は1色または2色で塗ることが多い。たとえば地面の、日の当たる部分と影の部分のように、空間がなんらかの理由で物理的に2色に見える場合に、塗り分けることが多いという。筆を置き、支援者に「できました」と告げ、甘いコーヒーをゴクゴクと飲む。ここまで、約1時間の流れである。
 吉田がこのアトリエに通いはじめてから10年ほど経つ。通い始めたころは、画面のなかに直接それと分かるようなはっきりした形は存在せず、絵の具が壁のように画面を埋め尽くすような作品を制作した。その後、画面にものが現れた。初期によく描かれたのは犬や猫といった動物だった。施設周辺には地域猫がいるため、吉田にとっては身近な存在のようである。2013年~2015年頃には、モチーフを分解したようなスタイルで描いている時期もあった。人物画を描くことは少ないが、自画像や吉田の気に入った人物を描くことはある。モデルの写真を元に描かれた作品「ゆうたろうさん」はそのなかでも鮮明な印象を与える。
 シュールで可愛らしい一面もあるが、なによりも日常の一瞬を捉えその残像だけを焼き付けたようなミステリアスさが魅力である。奥底に潜んでいるような光を感じることのできる作品である。(青井 美保/高鍋町美術館学芸員)

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