NO-MA ARCHIVE(ノマ アーカイヴ)

講演
2018.12
意思の確認が困難な作者の作品を展示すること1――「意思決定支援」という考え方

山田創(社会福祉法人グロー法人本部企画事業部学芸員)

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この文章は、NO-MA学芸員が社会福祉法人グロー(NO-MAの運営団体)の研究発表フォーラム(2018年12月2日)でプレゼンテーションした内容を再編したコラムです。肩書は発表当時のまま掲載しています。

「当事者が展示してほしいと思っているかどうかなんて分からないのに、なぜ作品として美術館で展示をするのでしょうか?」

しばしば、このような発言を耳にします。その度、NO-MAの学芸員としてこの質問に対し、どのように答えればよいかと考えてきました。

私たちが作品の出展をお願いする障害のある作者の中には、自分の作品が展示されることについてどのように思っているのかの意思確認が難しい人たちも多く、先の発言は重要な問いかけをはらんでいると感じていました。果たして、意思の確認が困難な作者に、NO-MAは、どのように向き合えばいいのでしょうか。

福祉の世界の概念に「意思決定支援」というものがあります。障害の特性により、本人が自らにとって最良だと思われることを判断できない、また思いがあっても伝わるように意思表示できない、といったケースに際し、支援者が当人の選好を推定し、不利益を被らせないことなども勘案しながら、当人の意思決定することを支援していくというものです。

ここで、私の先輩の横井悠学芸員と知的障害を伴う自閉症のある作者であるYさんとのエピソードを紹介します。横井学芸員は、Yさんに会場の写真を示すなどして展覧会を説明し、「この作品を展示してもよいですか?」と聞きました。するとYさんは「展示する」と答えたので、横井学芸員は「じゃあ、受け取ります」と言って、作品を手に取ろうとしましたが、Yさんは手を離してくれません。Yさんの葛藤を感じた横井学芸員は、「やっぱり展示するのやめましょうか?大事なものなので」と手を離すと、Yさんは「展示する」と作品を差し出しのですが、やはり手は離さないまま。このようなやり取りがしばらく続いた末、最終的にYさんは大きな深呼吸を1つして、ひと思いに作品から手を離し、出展の意思を固めました。

矛盾する気持ちを抱えていた様子のYさんに対し、横井学芸員は、出展を依頼する立場でしたが、強要することはせず、Yさんが様々な選択肢を熟慮できるよう「出展しなくてもいい」という選択肢も提示していました。一義的には横井学芸員は出展を交渉しているのであり、Yさんの支援を行っているのではありません。しかし、出展するという方針を2人で決めていくそのプロセスには、意思決定支援の要素を含んでいるとも思えてきます。

誰か別の人間が本人の意思決定を支援する―― そのためには、しっかりと相手を観察し、発せられる情報を慎重に受け取り、方針について熟慮する必要があります。これは非常に難しく、責任の重い支援の形だと思います。そして、正解が用意されているものでもないとも。けれども、意思として表示されず、当人の心を推し量っていくこの支援には、初めの問いかけに答えるための、重要な示唆が含まれていると感じています。

後日談として、展覧会場で自分の作品が展示されているのを見たYさんは、その風景をまた絵に描き、その絵も会場に飾られることになりました。Yさんの思いを言語化することは難しいです。しかし、絵という形をとった思わぬリアクションは、Yさん側からNO-MAに送られた素敵なメッセージだと感じました
(「意思の確認が困難な作者の作品を展示すること2」に続く)

出典:『野間の間VOL.23』(2019年3月発行)

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