NO-MA ARCHIVE(ノマ アーカイヴ)

講演
2019.12
カルチュラル・デモクラシー:芸術を楽しむこともボーダレスに
― 芸術とアクセシビリティの関係について ―[後編]

石田瞳

(社会福祉法人グロー自立生活支援員)
22main01

「発達障害の人と楽しむ芸術鑑賞会」での振り返り

この文章は、社会福祉法人グロー(NO-MAの運営団体)の研究発表フォーラム(2019年12月8日)で同法人の自立生活支援員がプレゼンテーションした内容を再編したコラムです。

昨年度、障害のある人のアクセシビリティ(社会参加のしやすさ)の向上を目指して、ボーダレス・アートミュージアムNO-MAの企画展を題材に高次脳機能障害の人、盲ろうの人、発達障害の人とともに楽しむ芸術鑑賞会を開催しました。前編で紹介したカルチュラル・デモクラシーの視点を軸に、障害のある人のアクセシビリティの拡充とは何を意味し、芸術から見えてくる支援のあり方とは何か、これらの実践を通して考察します。

「高次脳機能障害の人と楽しむ芸術鑑賞会」では、学芸員によるギャラリートークと選べる3つのアクティビティを実施し、最後は、全員でお茶を飲みながら交流しました。作品を分かりやすく紹介した「鑑賞会ガイド」は、ルビありとルビなしの2種類を作成しました。参加者からは「楽しかった」「もっと交流会をしてほしい」という声が挙げられました。

「高次脳機能障害の人と楽しむ芸術鑑賞会」のお茶の時間

「盲ろうの人と楽しむ芸術鑑賞会」では、まず前半で作品を触って鑑賞し、後半では、粘土を使って作品制作をし、参加者同士で作った作品を鑑賞し合いました。盲ろうの人を対象に事前レクチャーを行い、鑑賞会では、通訳介助者が通訳しやすいように、簡潔な言葉を使ってゆっくり話しました。盲ろうの方、一般参加の方からは「意見の交換ができて楽しかった」という感想が寄せられました。

「盲ろうの人と楽しむ芸術鑑賞会」の制作の様子

「発達障害の人と楽しむ芸術鑑賞会」では、学芸員のナビゲートのもと展示会場を巡り、参加者同士で、また一人で鑑賞し、最後に振り返りを行いました。振り返りでは、「何を言ってもいい、何も言わなくてもいい、否定はしない」というルールを設けました。「いろいろな方々が交流して共感できる機会を深めてほしい」という意見をいただきました。

当事者や支援者とともに企画したこれら3つの鑑賞会では、交流や共感の場が生まれました。それは、鑑賞会の会場となったNO-MAにカルチュラル・デモクラシーがあったことを意味しているのではないでしょうか。芸術を提供する⇔される、という関係を超えて、誰もがそれぞれの方法で芸術を楽しむ選択ができる場になっていたと考えられます。

ここで最初に提起した問題に戻りたいと思います。障害のある人のアクセシビリティの拡充とは何を意味するのか。すべての人が同じ体験ができることではなく、誰もがそれぞれの方法で人生を楽しむことができるように、それを可能にする関係を発展させることがアクセシビリティの拡充ではないでしょうか。

芸術から見えてくる支援のあり方とは何か。カルチュラル・デモクラシーに見られる参画者同士の互いの声や権利を認め合う関係ではないでしょうか。これは芸術をともに楽しむことで導き出される考察です。芸術を通して、支援のあり方への気づきが生まれるのです。

出典:『野間の間VOL.26』(2020年11月発行)

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