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講演2019.12
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カルチュラル・デモクラシー:芸術を楽しむこともボーダレスに
― 芸術とアクセシビリティの関係について ―[前編]石田瞳
(社会福祉法人グロー自立生活支援員)
盲ろうの人と楽しむ芸術鑑賞会
この文章は、社会福祉法人グロー(NO-MAの運営団体)の研究発表フォーラム(2019年12月8日)で同法人の自立生活支援員がプレゼンテーションした内容を再編したコラムです。
本年度より、社会福祉法人グロー法人本部企画事業部ケアサービス推進課(※)では、誰一人取り残さない共生社会づくりに向けて、アクセシビリティ研究を行っています。アクセシビリティという言葉は、一般的には情報へのアクセスのしやすさという意味で使われていますが、ここでは社会参加のしやすさを指します。芸術をきっかけに、障害のある人、特に制度のはざまにある人たちの生活ニーズに着目し、様々な場面へのアクセシビリティの向上を図ることを研究の目的としています。
本研究について考えるにあたり、前置きとして、私が大学院で博物館学という分野で学んだことを一部紹介します。現在、イギリスでは「認知症フレンドリー美術館・博物館」の普及が進んでいます。美術館や博物館を安心できる地域の交流スペースと捉え、認知症の人と家族のグループセッションを定期的に開催したり、美術館の職員が認知症について研修を受けたりするという取り組みが行われています。また、美術館や博物館が「認知症フレンドリー」になることは、「カルチュラル・デモクラシー」という視点からも考察できます。
カルチュラル・デモクラシーとは、すべての人が文化を作る、また鑑賞する実質的な選択の自由を持つ状況を指します。最近では、「文化の民主化」、つまり美術館や博物館がすべての人に「偉大な芸術」を提供することではなく、「文化の民主性」(カルチュラル・デモクラシー)が訴えられるようになってきています。美術館が認知症の人や家族と関係を築くことは、症状の予防や改善、また支援のためだけではなく、文化の民主性を追求することでもあり、芸術文化をより豊かに創造的にすることでもあるという概念が認知症フレンドリー美術館・博物館の背景にはあります。
本題のアクセシビリティ研究では、当法人が運営するボーダレス・アートミュージアムNO-MAの企画展を会場に、高次脳機能障害のある人、盲ろうの人、発達障害の人とともに楽しむ芸術鑑賞会を実施しました。障害当事者や支援団体と連携を図り、また、滋賀県高次脳機能障害支援センター、滋賀県立むれやま荘、滋賀県発達障害者支援センターなど法人内のつながりも活かして、鑑賞会を企画しました。
高次脳機能障害の人と楽しむ芸術鑑賞会
発達障害の人と楽しむ芸術鑑賞会
障害のある人のアクセシビリティの拡充とは何を意味するのか。芸術から見えてくる支援のあり方とは何か。これらの問題について、後編では研究の成果である実践を紹介し、考察したいと思います。
(次号に続く)
※NO-MAを運営しているグローの法人本部企画事業部にある課のひとつ
出典:『野間の間VOL.25』(2020年3月発行)