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五十嵐朋之さん

作品調査

五十嵐 朋之IGARASHI Tomoyuki

1977年生まれ 東京都在住

五十嵐作品01
「折り布シリーズ」

2020-2021年 布、糸 (上から反時計回りに)《鮫》200×500 《鮭》105×440 《鰯》80×260 《飛魚》150×250 《海老》130×230

五十嵐作品02
《昆虫ダンサー》

2015年 257×364 紙、ボールペン

《ダンサー》

2014年 364×257 紙、ボールペン

「折り紙食品シリーズ」

2020年~ 紙、色鉛筆、紐 (左上)《海鮮丼》100×280×200 (下)《あじの塩焼》150×355×40 (右上)《天ぷら》165×210×50

※以下の文章は、「滋賀県アール・ブリュット全国作品調査研究」令和3年度報告書から抜粋したものです。

 五十嵐は1996年よりクラフト工房La Manoに所属し、以来18年間染色や刺繍によるグッズ制作を担当していたが、次第に決められた製品を作ることから興味が離れ、2014年より同施設内のアトリエメンバーとなった。
 La Manoは東京近郊の緑に囲まれた静かな丘の上にある。もともと昆虫や草木が大好きな五十嵐にとっては申し分のない環境と言える。木の実などを採取しては主に黒のボールペンでスケッチをしている。
 アトリエで活動するようになった当初はフィギュアスケートやバレエにも興味を持ち、雑誌を見てはダンサーの絵を描いていた。やがてダンサーと昆虫のイメージを合体させたユニークな「昆虫ダンサー」のシリーズが生まれる。虫たちにポーズをとらせたり、細かい振り付けの指示が添えられているものもある。
 2018年ごろからは厚紙でオブジェを作り始めた。教会や寺社など複雑な建築物のほか、魚や食べ物を立体的に表現したものだ。下絵も書かないまま手際よく切ったり折ったりし、完成後に飾るところまで想定して紐でぶら下がるようにしたものもある。
 2021年ごろからは工房で余っている藍染の布や糸を使って「折り布」と呼ばれる立体的な魚類を作り始めた。一見平らなパッチワークのように見えるが厚紙のオブジェ同様に魚の体はいくつかのパーツからなり、折ったり縫ったりして可能な限り三次元に近づけるよう工夫されている。軽くて柔らかく手に沿う優しい感触だ。ロックミシンをかけたような布端の始末や体表の模様の表現に長年工房で培った刺繍の技術が生かされている。細かく複雑な造形のためときどき糸が縺れてパニックになり投げ出すこともあるが、すぐに気を取り直してまた丁寧に作業を再開している。
 五十嵐の、これらの手先の器用さやデッサン力、画力は生来のもののようだ。刺繍だけで写実的な風景を描くこともある。また文字や言葉にも関心があり、絵の余白部分によく几帳面な文字が添えられている。図鑑の説明文のようにモチーフに関連した言葉の場合もあれば、会話から拾ったような言葉もあり、まるで自由律俳句のようだ。その中にときどき文字の一部分を書かない通称「抜かし字」が登場する。書き間違えているわけでなく故意に行っており、本人しか知り得ない暗号のような意図があるのか単にデザインとして使っているのかはわからない。
 最近は施設のタブレット端末を使って撮影しLa ManoのSNSに投稿することを覚え、その「by五十嵐」のポストを遡ると彼の草木や虫への愛着や日常を楽しむ姿が生き生きと伝わってくる。料理やDIYの動画も好んで見ていることからジャンルを問わず手を動かして物を作ること自体に興味があると思われる。これからも持ち前の好奇心と器用さで次々と多彩な表現を生み出し続けていくことだろう。(熊谷眞由美)

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