
作品調査
fuco:fuco:
2000年生まれ 佐賀県在住
※以下の文章は、滋賀県アール・ブリュット全国作品調査研究令和7年度報告書から抜粋したものです。
fuco:さんは中学から高校へ移った後にしばらく学校へ行かない時期があった。自宅で過ごす中、母親があまりのすることのなさに困り、ヒマつぶしに100均で買った模造紙と「クーピー」(プラスチック色鉛筆)をfuco:さんに渡した。するとものすごい勢いで色とりどりの「〇」を描き始めた。fuco:さんの中にあったエネルギーが色をまとって「〇」になり放出された瞬間だった。
ただの「〇」だと思っていたその放出が、たまたまのタイミングで近くの展覧会で展示され、作品の向こうに他者の存在を感じるようになり、グッズ化の話が実現すると、社会とのつながりが直接生まれていった。言語コミュニケーションが難しく、それまでほとんど直接社会とかかわる機会のなかったfuco:さんにとって、「作品」は思いがけずコミュニケーションツールとなった。声がかかればワークショップにも出掛ける。そして出会う人との化学反応が起こる中で新たな創作のバリエーションが引き出されてゆく。絵を描く以前には想像できなかったほどに行動範囲は広まっていった。
fuco:さんの描く一枚の作品の中には、〇と□と△はほとんど共存しない。一枚の紙の中に〇なら〇だけ、□なら□だけがひたすらに連ねられてゆく。隣の〇とギリギリくっついても、隣の〇を侵食せず、一つひとつが独立して不思議な規則性を持って並ぶ。まるで世界の土台をせっせと構築しているようだ。紙が大きければ10メートルでも埋め尽くしてゆく。宇宙の永遠性を表現するにはこの世の中のどんな大きな紙でも足りないのだ、という勢いだ。画材はマジック、ガラスペン、鉛筆、色鉛筆、アクリル絵の具、とこだわりなくチャレンジするが、振らないと出ないマーカーや、頻繁に削らねばならない鉛筆は勢いを削いでくるためペンが性に合うようだ。様々な画材にチャレンジすることや、色も単色、多色とあまりこだわりがなさそうなことから、fuco:さんにとって最も重要なのは、一定の規則性と永遠性に思われる。
描くスピードはとにかく速い。A1サイズをものの10分で一気に埋めてしまう。私が見た制作風景はマジックで△を描く様子だったが、その「キュキュキュッ」という音が永遠に刻まれてゆく時間のようで、非常に印象的だった。
おそらく「作品」という意識もなく現れる構築物なのだが、観る者に宇宙の法則を目の当たりにしたような圧倒感を与える。そしてその圧倒感を体に心地よく染み込ませてくる。反復の幅が大きければ大きいほど、fuco:さんの見ている世界に近づいてゆく。
fuco:さんは12歳の時からピアノレッスンを始めている。絶対音感があり、楽譜には母親の手で音符が色分けされるという一工夫もあり、かなり難しいショパンやグリーグも手元を見ないで弾きこなす。忙しく動く指からはじき出される大量の音は一音一音が粒のようにくっきりとした輪郭を持ち、fuco:さんの描く絵の世界観と似ている。隣の音と重ならずグラデーションがかからない。そして存在している音の景色を一瞬で表現したい衝動のように勢いがあるのも、絵と似ている。
ピアノ、一気に描き上げる絵画ともにパフォーマンス性が高く、その姿そのものもそうだが、fuco:さんが社会と関わり本人とその周辺がじんわりと変化してゆく経過もまた、作品のような存在だと捉えても良い。
(土居彩子)

