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作品調査

藤井 将吾FUJII Shogo

1986年生まれ 広島県在住

図1 《歌が聞こえる街》 

2018年頃 450×800 マット紙、鉛筆、カラーペン、マーカー

図2 《描きたいものたち》

2023年 540×800 マット紙、鉛筆、カラーペン、マーカー

※以下の文章は、「滋賀県アール・ブリュット全国作品調査研究」令和5年度報告書から抜粋したものです。

 藤井将吾は一枚の紙に様々なオブジェクトを詰め込む絵画を制作している。彼のモチーフはバスや電車などの乗り物とそれが走る線路と道路、標識や看板、企業名のロゴ、国旗、アニメのキャラクター、食べ物などである。藤井のモチーフは、例えば旅行に行った後日にその時に見たものが含まれるなど、時期によって流動的に変化するが、電車やバスなどの乗り物は過去から現在にかけて必ず登場する主題となっている。近年ではピラミッド、注射、お風呂、滑り台、飴、床屋が加えられる旬なモチーフであるようだ。
 藤井の絵画はアッサンブラージュの技法であり収集である。それは世界に見立てた一枚の紙の上に自分の興味のあるものを寄せ集め、眺めてみたいという欲望に突き動かされたカタログのようなものに見える。ただ、藤井の絵画が単純なカタログ化であると言いきれないのは、彼の絵画に微妙に立ち現れる空間表現である。藤井の近年の絵画は構図が若干右上がりになるものがあり、《歌が聞こえる街》では、画面下部のピンクの電車は右上がりに傾いている。このピンクの電車と線路は画面右上の青色の道路とその上を走るバスと前後の関係にあるように見える。
つまり、大きさの対比からピンクの電車が前景で道路のバスが後景という線遠近法、また画面下部が近景で画面上部が遠景であるとする山水画の上下法を見ることができる。
 しかし一方で、同作品において右上の「ジャスコ」と書かれたバスが道路のバスよりも大きいこと、《描きたいものたち》において前景にあるはずの新幹線が中央のバスよりも小さく描かれることは遠近法に反している。藤井の作品がカタログであるのならば、描かれたオブジェクトはどれも等量的な空間表現で描かれるべきであり、画面の看板や標識の部分がそうであるように平面的に羅列することが効果的であるが、乗り物をはじめそうなってはいないものが含まれている。藤井の絵画は看板類の羅列に見られる平面的な表現と、遠近法と逆遠近法が混在している。
 藤井は広島市に住み、平日は隣町(廿日市市)の作業所に通い、帰宅後や休日に作品を制作している。幼少期から絵を描くことは好きであったが、意識して描き始めたのは高校生の頃からであったそうだ。初期はモチーフが少なく、また電車やバスに人は乗っていなかったが、徐々に描き込むものが増えたという。藤井は絵を描くこと以外に、ペーパークラフトを制作すること、地図やGoogle Earthを見ること、出かけることが好きであるという。
 こうした藤井の好きなこと-地図を見ること、出かけること-を踏まえて作品を考察すると、藤井の絵画には「巡る」ということが関係していると考えられる。藤井の作品は自分の関心のあるものを描くことで可視化し、整理するためのマッピング(=カタログ化)である。そして、それらは電車やバス(藤井の場合は車が多いという)から窓の外を眺める風景として立ち現れてゆくため、それを眺める主体としての乗り物と乗客が必要である。さらに、乗り物は移動していることが必要であるため、乗り物を動かし、画面を動的にする仕掛けとして右斜め上に傾けている。藤井の表現方法は電車やバスで街を「巡る」という経験を、「映像的」に絵画として再現するための方法であると考えられる。
 藤井の作品は広島の認定NPO法人コミュニティーリーダー ひゅーる ぽんが主催する「アート・ルネッサンス」という展覧会で長年紹介され、2022年「この街で待つ」(品川区立障害児者総合支援施設「ぐるっぽ」)で展示され注目された。藤井は病院の待合時間などにも電車の絵を描くなど、描くことが生活の一部となっている。藤井の表現は、家族が所有する図書カードなども(承諾を得ないで)コラージュの素材に使用するなど描くだけに留まらない。
調査訪問のとき、過去作の撮影中に作品を手直ししたのが印象的だった。今後作品がどのように変化するのか楽しみである。(今泉岳大/岡崎市美術博物館学芸員)

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