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作品調査

伊藤 有紀恵ITO Yukie

1989年生まれ 宮崎県在住

伊藤作品01
《くまおくんと紫陽花》

2011年 1100×805 セロハン貼り絵

伊藤作品02
《いろんなどうぶつたち》

2016年 1100×805 セロハン貼り絵

伊藤作品03
《海の生き物》

2014年 600×400  セロハン貼り絵

伊藤作品04
《崩した数字》

2017年 475×550cm セロハン貼り絵

※以下の文章は、「滋賀県アール・ブリュット全国作品調査研究」令和2年度報告書から抜粋したものです。

 伊藤は小学生のころから、パソコンのイラストロジックでカラフルなドットを組み合わせたデジタル作画を制作していた。パターンが繰り返される配置や、小さなパーツを重ねていき一つの絵をつくる制作方法の原型は、ここにある。中学時代の美術の先生が「色の感覚がいい」と見い出し、伊藤の母はステンドグラスの好きな伊藤に「素材にセロハンを使用してみては」と勧めた。中学校卒業後に初の個展を実現し、毎年市民美術展への出展を重ねてきた。現在も自宅のリビングで、デジタル作画やセロハン貼り絵に、気ままに取り組む。
 ここで、現在の制作過程について説明したい。まず、透明で大きなセロハンシートを、折り紙サイズ(15cm角)にカットし、それをカラーペン(コピックスケッチやマッキー)約200種類のなかから色を選んで着色する。さらにそれを小さなパーツ(5mm角)に切り刻む。そこまでしたら、それらのパーツを伊藤のお気に入りの巾着袋に色別に収納する。作品の主題を決めた伊藤は、イメージに合う色のセロハンパーツを机の上に出し、下書きなしに液のり(アクアピット)でアクリル板に貼っていく。セロハン貼り絵を始めた当初、伊藤は着色したシートをキャラクターのフォルムに沿って切り抜く手法をとっていた。現在は細かく切り刻んだシートを、ちぎり絵のように貼っていく手法が定着した。また、配置の方法にも変化が見られる。当初は、宇宙や朝顔など一つのモチーフを画面のなかに繰り返し描いた。その後、細部にそのパターンを残しながらも、たとえば「犬・朝顔・かたつむり・鳥・虹・太陽」などといった複雑な組み合わせによる「風景」のような配置へと展開し、近年は様々な動物が一つの画面のなかに存在する「図鑑」のような配置へと展開している。
 とはいえ、繰り返すパターンが伊藤の本領であることに変わりなく、そのなかにバリエーションを持たせている、という言い方がその実態に近い。多くの人を魅了する伊藤の作風になくてはならないものが、瑞々しさや透明感といったセロハンの特質である。また、キャラクターの愛嬌たっぷりな表情も挙げられる。笑っている生き物は少ないが、みんななんだか楽しそうだ。モチーフの大きさは、遠近法関係なしに伊藤の主観で決まる。まるでコンピューターの画面上で、マウスで自由に縮尺したかのようである。余白には、ぎっしりと不思議なグラデーションのセロハンが張り巡らされる。それらの様子からも、長年セロハンによる制作に取り組んできた伊藤ならではの独自のルールが複数確立されていることがうかがえる。そして、それらがどれも、現代という時代性に富んでいる点が非常に興味深い。(青井美保/高鍋町美術館学芸員)

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