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作品調査

片山 リサKATAYAMA Risa

1977年生まれ 愛知県在住

無題

2022年 35×120×233 紙、プラスチック、ペン

紙袋に入れたおもちゃ 

無題

2022年頃 約400×300 ビニール袋、ペン

※以下の文章は、「滋賀県アール・ブリュット全国作品調査研究」令和4年度報告書から抜粋したものです。

 紙封筒が着彩されている。中には何か立体物が入っているのだろうか、封筒には膨らみがある。封筒の表面にはTwitterのアイコンのような小鳥のかたちの突起物が取り付けられている。封筒は封がされていて中は見ることができないが、中にはこの日彼女がポケットの中に忍ばせて自宅から施設に持ってきていた、手のひらサイズのミッキーマウスのおもちゃが入っている。
 片山リサは豊田市のむもんカンパニー青い空に通っている。週に一回の創作活動の日に訪問した筆者は、運よく片山の上記の制作をはじまりから終わりまで見ることができた。制作の手順は以下のとおりである。①封筒を用意し、マジックで表面と裏面に線を引く、②線で仕切られた面をマジックペンで塗る、③紙のシールをハサミで切り、線と着彩を施して、突起部とその台座を制作する、④それを封筒に取り付ける、⑤(ポケットから取り出した)おもちゃを封筒に入れる、⑥再びハサミで切ったシールに線を描いて封筒の開け口に封をする。片山は一連の制作を30分程で完成させた。
 施設の担当者によると、片山はいつもこのようにおもちゃを入れ着彩を施した封筒を、また別の着彩したビニール袋に入れ、過去に作り溜めた同様のものと併せて、通所の際に使っているリュックに入れて持ち運ぶのだという。おもちゃは封筒、ビニール袋、リュックと三重に包まれることになる。こうした生活の中で、日々彼女がそれらを携行し、リュックから出し入れを繰り返していると、次第に封筒やビニール袋は劣化する。すると、彼女は新しい袋を制作し中身のおもちゃを入れ替え、古い袋は廃棄するそうである。
 ビニール袋への着彩は紙袋とは異なり、具象的なイメージが描かれるものがある。特定のキャラクターを思わせる人物やシルエット、文字が描かれた図像である。それらは繰り返し反復して描かれているようであり、片山にとって特別な意味があるようである。
 片山が一連の行為をはじめた時期やきっかけは定かではないが、話によると、自身の姪や甥にあたる子どもが自宅に遊びに来た際に、彼らが片山のおもちゃに触ることを防ぐために行ったのだという。おもちゃを袋に入れ、さらに自分のカバンに入れて携帯することによって、自分のおもちゃを他者に見られ、触れられ、あるいは盗まれることを防ぐことができる。調査時に筆者がおもちゃの入った封筒の撮影をしたいと申し出た際も、彼女は私が封筒に触ることに納得のいかないようであり、撮影のあいだはそわそわしているように見えた。
 片山の一連の制作に通底するのは、片山の「包む」ことへのこだわりだと思われる。片山は自身の所有物を封筒やビニール袋、リュックによって複数回「包む」ことで他者から隔離し、所有物を保護する。その際、包むものに着彩や突起物などデコレーションを施す理由はなんだろうか。「創作」をしなくても、袋におもちゃを入れるだけで「包む」という目的は達成される。考えられるのは、①自分のものであることを明確にするためのマーキング、②個体識別するためのラベリング、③包むことに関する儀礼的な何か、④単純な装飾、である。あるいはそれは、我々の「包む」文化に通底するもの、例えば、高級ブランドやファッションブランドの鞄を持つ人が通念として持っている〈鞄=包み携帯する入れ物〉に対する嗜好性のようなものであろうか。
 いずれにせよ、片山の制作は自身を安心させる行為であり、彼女によって制作される袋は、彼女の生活の中で生み出され、使用され、廃棄される。それが美術作品として彼女の手から離れて展示されることは、当然ながら望まれていない。彼女が包んでいるのは、人が覗くことや立ち入ることができない、彼女の心や秘密のようなものであるのかもしれない。(今泉 岳大/岡崎市美術博物館学芸員)

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