
作品調査
小林 育夫KOBAYASHI Ikuo
1961年生まれ 岐阜県在住
※以下の文章は、滋賀県アール・ブリュット全国作品調査研究令和7年度報告書から抜粋したものです。
調査当日、革のキャスケット帽にオレンジのスカーフのおしゃれに身を包み、期待に満ちた表情で担当スタッフと並んで玄関で待っていた。挨拶も早々に早く見てほしいといった気持ちが伝わってくる。広い部屋に並べられた長机にたくさんの画用紙やスケッチブックが並べられていた。
小林は、学生時代は格闘技をやるなど体を動かすことが大好きだった。就職してからは順調に歩んでいたが、20代で病によって右半身まひとなり、入院生活の後、施設に入所した。前の施設では畑仕事を中心とした体を使った仕事に取り組んできたが、身体面での心配もあり、現在の高山山ゆり園に移った。
入所してからは、塗り絵やスケッチなどの美術活動にはまった。描きたい気持ちがどんどん高まっていき、朝から寝る時間まで夢中で描く日がどんどん増えていった。コロナの影響で展示発表の機会が減った時期もあったが、一日も休むことなく何枚もの絵を描く生活を6年間続けてきた。日記のような活動と感じていたスケッチは、それを越えた日常の中心になっていった。気に入った絵はスケッチブックのページをちぎり、壁を指して飾ってほしいと気持ちを伝える。職員が描いたものを見て驚いたり、題材について話しかけたりなどの反応が好きで、みんなが自分の作品を楽しみにしていることも励みになっている。廊下の壁には常に数枚の小林の絵が展示されている。これまでの2000枚を超える作品は全て施設で大切に保管している。長机に並んだ作品はその一部だ。
朝、新聞や広告、職員の差し入れの冊子などを見て気になる記事や写真から描く題材を選び、それらを体の左側に置いて眺めながら描いていく。まず記事の文章や名前などの文字情報を書き込んでから、絵に移る。スポーツ、長寿、プロレス、映画、歌手、俳優、事件記事、地域のトピックなど、様々な題材、その時その時の気分で選ばれているのがわかる。オリンピックが開催されるとスポーツ選手の絵が増えるし、好きな昭和の歌手や俳優は何度も絵にしているし、気になるローカルニュースや凶悪犯罪の記事なども目を引く。ボールペンや「クーピー」(プラスチック色鉛筆)を使って写された人物や風景、文章は、消しゴムを使わずどんどん線を描き重ねていく。手のゆらぎやふるえがそのまま表れたような線をある時は一筆書き的に、ある時は何度も書き重ねるように描いていくため、一度見たら忘れられない、やわらかな雰囲気の一種のくずし絵とでも言うような仕上がりになっている。描かれる人物の表情は総じて優しく微笑んでいて、人懐っこい彼の周囲への視線や思いを想起させる。
アートに理解のあるスタッフの働きかけもあって、施設内の展示だけでなく、公募展への出品や、広告媒体のイラストに採用されるなどの、思いがけないできごとや交流や初めての経験が人生を広げている。描き続ける一枚一枚の作品は、彼の毎日を支え明るく照らす大切なもの。ピックアップされた物語は彼の人生を彩る小間絵なのだ。
(米田昌功 / 富山県障害者芸術活動支援センターばーと◎とやま代表・NPO法人障害者アート支援工房COCOPELLI代表)
(主な出展歴)
2022年 「手に手をつなごう作品展」傾奇者賞(高山市民文化会館)
2024年 「いろんなみんなの展覧会 虫が食む。」(ぎふ清流プラザ)





