
作品調査
南部 たきNANBU Taki
1990年生まれ 大阪府在住
※以下の文章は、滋賀県アール・ブリュット全国作品調査研究令和7年度報告書から抜粋したものです。
南部たきさんの絵には、好きなもの、心地よいもの、感動したことがたくさん詰まっている。2012年からYELLOWに通っている。
YELLOWは、関西空港りんくうタウンに近い、観覧車の見えるところにある。2009年に就労継続支援B型事業所として開設され、現在は24名の人たちが通っている。それぞれの好みに合わせ、一階のアトリエでは様々な画材を使った表現活動に、二階では軽作業にいそしんでいる。アート活動をするにしろ軽作業をするにしろ、プロセスを楽しみながら、一日一日を大切にしてくらしている。こじんまりしたアトリエには、柔らかい風合いの白い大きめのテーブルがいくつかあり、スタッフもアート活動をする人も同じテーブルを使っている。3人のスタッフと名刺交換したが、名刺のデザインは三者三様で、肩書が「アトリエのひと」などとなっている。障がいのあるなしにかかわらず、違う相手のことを受け入れることによって醸成されたその場には、肩の力の抜けた愉快さがただよっている。南部たきさんを含め、16人の人のこれまでの作品を見せてもらった。各人の作風は、年月とともに変化(進化)する傾向があるが、それぞれ個性に満ちている。
南部たきさんの作風も進化した。YELLOWで制作を始めたころは、色鉛筆で、現在の細密さと比べると大きめの絵柄を描いていた(写真1)。スタッフは、制作に関してはご本人の気持ちに寄り添うだけだが、画材には肌理細やかな配慮をする。「アトリエのひと」水野浩世さんは、たきさんの柔らかな筆圧に合わせてペンも使えるよう準備した。ペンのクリアな感じが文字に適していると思ったのか、たきさんは文字画や文字メッセージを書き込んだ絵を描いた(写真2)。写真2には黒い文字で「ははと書くと安心するわよねぇー、なーんか、すぐそばにいてる気がしてねぇ~」「本当に母が好きです。今日もひっつこうなー、ウフフ ローズちゃーんいつでも、一緒よ」「イエローにきている間もずっとローズちゃんのことをきにしてるのよ」「私、もなこちゃんは、ローズねえちゃんがいてなかったらどんなに淋しいかしってる?!」などと書かれている。よく見るとローズちゃんという文字が絵のあちこちに読める。ローズちゃんは、お母さんの頭のホクロ、モナコちゃんは首のホクロだそうだ。写真1の真ん中のハートのなかにいる、頭に薔薇を乗せた女の子がローズちゃんだ。これだけで、「たきさんワールド」に引き込まれる。おっぱいも「たきさんワールド」の大切な住人だ(写真3、4)。お姉さんの出産と授乳に神秘を感じてから、お乳でたわわになったようなおっぱいを描いているそうだ。乳時雨(ちちしぐれ)、乳の宮神社、おっぱい村という言葉、おっぱいをゆさゆささせながら踊っている鳥や猫の妊婦さん(写真3)、ローズちゃんのように人格をもつおっぱいが「たきさんワールド」から飛び出してくる。たきさんは、観る人がおっぱいの絵を見て驚くのも楽しいそうだ。
ローズちゃん、女の子、ハート、鳥、猫、花、ときどき蝶々。色鉛筆時代から、たきさんの大好きなモチーフだ。たきさんは現在、さまざまな彩に挑戦しながら、色画用紙にペンで細密な絵を描き上げる(写真5、6)。目を凝らすと、そこにも大好きなモチーフが顕れているが、おっぱいインパクトの後では、ハートや二つ並んだ丸いものがおっぱいに見えてしまい、私はなんだかぽっかり暖かくなる。まさに「たきさんマジック」だ。
(青木惠理子/龍谷大学名誉教授)





