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作品調査

西村 真智子NISHIMURA Machiko

1953年生まれ 滋賀県在住

《顔》 

2007年頃 545×768 黄ボール紙、水彩絵具、クレヨン、墨汁

無題

2010年 271×394 画用紙、水彩絵具、クレパス

無題

2012年 527x773 紙製ボード、墨汁、パステル

無題

2021年 271x395  水彩紙、墨汁、水彩絵具、パステル

無題

2021年 391x543 色画用紙、アクリル絵具、パステル、顔料マーカ

※以下の文章は、「滋賀県アール・ブリュット全国作品調査研究」令和4年度報告書から抜粋したものです。

 西村は社会福祉法人グロー「バンバン」に所属し、同施設で絵画活動が始まった2001年から絵を描いている。使用される支持体は、画用紙や黄や黒などの色付きの紙。サイズは四切(395×546mm)や八切(270×380mm)が多く、一部半(546×789mm)など大きい作品も手掛けている。また、画材については主に筆と絵具、パステルなどで描かれるが、過去には筆の代わりに竹ペンを使用したこともあった。これは西村の作品の傾向からスタッフが試行したもので、現在は筆に戻っている。小さいサイズであれば大体1~2時間で仕上げる。最近は制作時に気分が乗らない時期が続いたとのことで、描くのを控えていたという。本調査時はおよそ5か月ぶりの制作だったので、西村も新鮮な気持ちで取り組めたのか、10時から12時の活動時間の中で勢いよく3枚の絵を描き上げた。
 絵を描く様子見ていて特に興味深かったのが、流れるような描画であった。次はどうやって描こうかと悩むそぶりも、完成形が見えている感じもなく、筆を持つ手はひたすら動き続ける。その瞬間に現れては消える脳内イメージを拾い上げ、映し出しているかのようであった。そのような即興的描画が可能になるのは、彼女の独自の表現方法によると思われる。
 西村の制作は、まずモチーフの輪郭を引き、画面構成を行うことから始まる。題材になるのは、人物、魚、花、建物、乗り物など。それらはシンプルな構造からなる形態に置き換わり、紙上で連鎖する。モチーフの描き方は、ある程度決まっている。魚の場合は真横から捉え、丸い目が1つと鱗が4枚ほど。人物は真正面から捉え、顔は丸く大きく、目鼻口は記号的に表現し、表情はあまりつけない。また、背景には丸や三角などの幾何学形態やドット、×マークなどを描き、作品によっては、これらの形を丸い顔の前面に重ねていく。顔の内部の余白が気になるのだろうか。その理由はわからないが、このように要素が多層化することによって、複雑で印象深い画面が作られていく。
 画面構成ができたら、続いては着彩。色を塗ること自体を素直に楽しんでいるからか、この過程では瞳が紫、顔が緑になるなど、実際のものの色から解き放たれ、シュールな印象が深まっていく。また、カラフルな作品もあれば、単色で描くこともありそのニュアンスはさまざま。その中でカラフルな作品を見ていくと、いずれも配色が調和しているのがわかる。そこには主に2つの描き方による影響が考えられる。1つは水分を多く含ませていること。そのことで透明感が生まれ、支持体が色画用紙の場合は特に地色の影響を受け、画面全体が安定する。もう1つは個々の色彩が散在していること。背景の模様に塗った色を人物の瞳や別の生きものの顔にも用いるなど、全体に散らすことで、統一感のある画面を作り出している。
 人物の手足の描き方や一定の略画を繰り返すところなど、西村の絵には児童画との類似性が確認できる。しかし、いくつもの絵を見渡すと、そこには稚拙さよりもむしろ巧妙さが際立つ。それは主に上記の表現方法の上で、独自の世界を確立しているからだと考えられる。(横井 悠/ボーダレス・アートミュージアムNO-MA学芸員【執筆当時】)

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