NO-MA ARCHIVE(ノマ アーカイヴ)

大倉史子さん

作品調査

大倉 史子OKURA Fumiko

1984年生まれ 埼玉県在住

大倉作品01
無題

制作年不詳 315×235 紙、セロテープ、マジック

大倉作品02
無題

制作年不詳 238×153 紙、セロテープ、マジック

大倉作品03
無題

制作年不詳 左から524×370、427×328、305×302 紙、セロテープ、マジック

※以下の文章は、「滋賀県アール・ブリュット全国作品調査研究」令和4年度報告書から抜粋したものです。

 無数の顔が並ぶ。有名人も混じっている。たとえば、モーニング娘。のメンバーの顔は、登場頻度が高い。俳優の顔も散見される一方で、素性のわからない人々も多い。もとのコンテクストから剥がされた無数の顔たちが集約され、一つの造形物と化している。こちらを見つめる群体の顔、四角や丸にとらわれない非典型的な形、貼り合わされたテープの鈍い光沢など、「ただならぬモノ」といった感じの存在感がある。
 大倉史子が通う「工房集」は、創作活動の盛んな実践で全国的にも知られる福祉施設である。彼女が描く絵も魅力的であり、これまで多くの展覧会に出品されてきた。他方、このコラージュは、工房集の活動というよりも、私的なものとして営まれてきた。
 大倉は、基本的には、常に2、3枚のコラージュを、文字通り手に持っている。それに加えて、カバンの中などに複数枚ストックし、携行してもいる。このようなコラージュとの生活は、少なくとも20年以上前から続いてきたようである。制作は、基本的には自宅で行われており、支援者らも制作工程をじっくりと見たことがないという。なお、調査できた作品は、何らかの理由で彼女がもう不要と考えて手放し、工房集が保管していたものである(「使い古し」といっていいかもしれない)。
 芸能人以外のほとんどは、法人の広報誌から切り抜かれた人物たちで、大倉のよく知る職員、利用者などであり、基本的には画面上のすべての顔を、彼女は把握している。それらの写真は、雑誌や、社会福祉法人の広報誌、支援者に頼んで特定の人物の画像をパソコンから出力して集められた資料などがリソースとなっている。
 すでにたくさんの顔が貼られたコラージュを、支援者に頼んで数十部程度コピーしてもらうことも習慣の一つとなっている。こうすることで顔は、さらに何倍にも膨れ上がる。彼女はこの倍増された顔もコラージュの材料にする。あるいは、一度、支持体に貼り付けたものを直接切り取って、自身の手にある別の支持体に組み替えるということも行っている。この一連からわかるのは、身近な人物たちの増殖、配置、組み換え、エンドレスなコピーアンドペーストが、大倉の手の内で常時起こっているということになる。
 次に、画面に目を凝らせば、同じ顔が何度も反復されていたり、性別やアイドルという「属性」でまとめられていたり、似ている表情や髪型などの視覚的類似性で並べられていることがわかる。顔同士の配置関係を注視すれば、そこには大倉の巧みな編集的思考が滲んでいることに気づくだろう。
 大倉は、いわば、人間関係の永続的な編纂作業の半ばにあるといえるのかもしれない。リソース(人の顔)を、外部(雑誌、広報誌、インターネット)から取り寄せたり、自己増殖(コピー)するなどして安定的にストックし、それらを類比や対比、あるいは意外性のある接続など、ダイナミックに配列する。コラージュは、この編纂を受け止める媒体であり、彼女の記憶や内観世界に密接した、いうなれば、「外部メモリ」のような存在として考えられる。乱反射する無数のポートレイトと、それをときに束ね、分かち、まとめあげる――ダイナミックな編集の混合体がゆえ、コラージュには妙なスリルと熱量がある。
 ところで大倉にとって、もともとこのコラージュはごく私的なものであり、はじめは人に見られることを嫌ったという。しかしながら、工房集で時間を過ごしていくうちに、彼女自身も次第にオープンになっていく。それに連れて、コラージュが人に見られることも気にならなくなったし、現に今回の調査でも、彼女のいる前で作品を見せてもらうことができた。また、制作には大量のコピーを要するため、必然的に、支援者に頼らざるを得ない場面が生じる。私的なメモリーだったものに、一定の公的領域が交差するようになったわけである。ヴァーチャルな人間関係を象徴するかのようなコラージュを介し、実社会のコミュニケーションの広がりが生まれたこともまた興味深い。(山田創/ボーダレス・アートミュージアムNO-MA学芸員【執筆当時】)

作家一覧

関連記事

ページのトップへ戻る