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佐々木竜也さん

作品調査

佐々木 龍也SASAKI Tatsuya

2000年生まれ 長野県在住

佐々木龍也制作風景01

図1 2018年撮影

佐々木作品01

図2 2018年撮影

佐々木制作風景図3-1

図3ー1 「警察」という字のパーツを先に作ってからプラモデル的に組み合わせていく 2021年撮影

佐々木制作風景図3-2

図3ー2 「警察」という字のパーツを先に作ってからプラモデル的に組み合わせていく 2021年撮影

佐々木制作風景図3-3

図3ー3 「警察」という字のパーツを先に作ってからプラモデル的に組み合わせていく 2021年撮影

佐々木作品02

図4 からくりTVの出演者

※以下の文章は、「滋賀県アール・ブリュット全国作品調査研究」令和3年度報告書から抜粋したものです。

 本稿では佐々木龍也の「数え棒」にまつわる表現を取り扱う。佐々木は数字を学ぶために使う教材の数え棒を組み合わせ、言葉を作るという表現行為を行う(図1、2)。ばらばらになった数え棒の中から同じ色をささっと手に取り、手際よく文字として並べる所作には奥ゆかしさがあるし、また数え棒という極めてシンプルな形状の素材が即時的に文字として組織化されていく様子は「文字記号とは何か」ということを考えさせる表現でもある。
 この表現のルーツは幼少期の特別支援学校時代に遡る。当時の写真が残されていたが、そこには、彼がジェンガや割り箸などを並べ、文字を作っていた様子が記録されていた。「棒状のものを並べ文字を形作る」ということに幼い頃から取り組み、なじみ深い動作として身体化してきたものと推察できる。
 この行為における特徴の一つとして、文字を組む時の順序がある。佐々木は、それぞれの部首のパーツを作り、それを組み合わせるようにして言葉を作っている。つまり、図のように「警察」という二字熟語を表現するにあたって、彼は「言」「示」をばらばらに作り、それらを移動させて、組み合わせるという方法をとっている(図3)。
 このプロセスにおいては、書き順はおろか、それぞれの語のつながりも希薄になっているように見える。「警察」という言葉を分解するならば、多くの人は「警」と「察」の二字に分けるだろう。しかしながら、佐々木はより細分化された部首の集合体として「警察」を見ている。そこには、言葉の流れや意味内容よりも、部分を組み合わせ、全体を作る、いわばプラモデル的な関心が読み取れる。
 次に、言葉選びについて注目したい。頻出するのは芸能人の名やテレビ番組に起因するフレーズなどである。例えば、2021年現在も放送している「開運!なんでも鑑定団」がルーツの「本人評価額〇万円」といった表現が見られる。
 ところで、こうしたテレビ番組にルーツを置く文字表現については数え棒だけではなくて、図4のように紙の上に書く行為としても行われている。題材となるテレビ番組は、基本的に「開運!なんでも鑑定団」、「さんまのからくりTV」、NHKの人形劇の3つである。書かれるフレーズは、固定されており、たとえば「さんまのからくりTV」だと、出演者の名前と、その下に彼らのクイズの獲得点数が決まって書かれている。ここから、彼が特定のシーンを明瞭に
記憶し、それを書き表していることがわかる。
 他方で、こうした紙に書く文字の表現と数え棒の文字の表現で異なることがあることを、彼の支援者が教えてくれた。紙に書くのは、同じフレーズの反復なのだが、数え棒の方はテレビに限らず、それこそ「警察」など彼が各所で見聞きしたであろう様々な言葉が登場するのである。ここから推察するに、数え棒は、佐々木にとって多様な語彙を表しやすいフォーマットなのかもしれない。
 決まったサイズで曲線的な表現ができない数え棒は、一見、文字を表すものとしては制限が多いように思える。しかしながらその均質性がゆえ、自ら書くよりも、佐々木にとっては様々な形状へと展開しやすい素材であると考えることはできないだろうか。数え棒は、佐々木にとって普段使いするフレーズとは別の言葉を繰り出すためのツールとして、彼とともにあるのかもしれない。
 なお、この数え棒による表現は、数年前にくらべ、頻度が落ちたという。いかなる心境変化があったのかはわからないが、彼にとっての言葉は、きっとまた形を変えて表出されるのだろうと想像する。(山田創/ボーダレス・アートミュージアムNO-MA学芸員【執筆当時】)

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