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たぶもとさん

作品調査

樚本 耕一TABUMOTO Koichi

1985年生まれ 宮崎県在住

たぶもと作品01
無題

2015年 160×200×180 陶土、釉薬

無題

2017年 280×150×Φ100 陶土、釉薬

たぶもと作品03
無題

2016年 300×110×Φ60 陶土、釉薬

たぶもとさん制作風景
〈制作風景〉

生命感溢れるうねり。点 が凝縮されることによる 存在感。人体のような フォルムのライン。不規 則なリズム。それらが作 品の愛嬌となって結集し ている。

※以下の文章は、「滋賀県アール・ブリュット全国作品調査研究」令和2年度報告書から抜粋したものです。

 グループホームで生活しながら、生活介護施設に通所している樚本は、父の勧めで2013年から工房・赤い面に通いはじめた。工房・赤い面の主宰者、加藤信由は近江学園職員としての勤務を経た後、宮崎県日南市の知的障害者更生施設「つよし寮」の開所当時の寮長を務め、2004年に日南市に工房・赤い面を設立した。現在樚本は毎週末、工房で3~4時間の制作に取り組む。他の外出を提案されても、樚本は工房での制作を選ぶ。工房での時間は、1週間の締めくくりとなる楽しみな時間のようだ。
 基本的な制作の方法は、豆粒から団子サイズほどの陶土の塊を丸めて、それを積み重ねて立体にする方法と、陶土を手のひらで紐の形状にして、紐同士をつなぎ合わせて立体にする方法の二通りである。深海に棲む生物にも見える作品は、粒によってつくられた“ひだ”部分に動きがある。側面についた触手の群生も、自由になびいている。また、小さな粒が縦横無尽に駆け回る作品は、ヴェールを覆っているようだし、あるいは塔に構築された螺旋階段のようにも見える。
 近年樚本は筒状の土台に、円やうずまき状の紐をまんべんなくまとわせた立体に取り組んでいる。工房の加藤と樚本の父は、ありのままの樚本の表現を受け入れることを念頭に、同じ時間をゆったりと過ごしてきた。筒状の土台は、途中で安定を失って崩れることもある。そのとき、樚本の父と加藤は、樚本自身が壊れた状況にどう向き合うのかを、ただ見守っている。予期せぬ事態が発生したときに、樚本がどう再出発するのか。その都度の選択が、樚本の“予期しないことが起きたときに決断する”といった視点における、大切な経験として積み重なっている。
 工房には、いつものメンバーが集い、一つのテーブルに向き合って、先週の続きから取り組む。樚本は、テーブルに用意された陶土を迷うことなくちぎり始める。なかには40年以上陶芸に取り組むメンバーもいて、工房には落ち着いた雰囲気が流れる。工房にいるあいだ、樚本の父は工房の隅でくつろいで過ごす。ほとんど言葉を発しない樚本がときどき、「おとうさん」とつぶやく。その都度、父は「はい」と応える。ちらちらと周りを気にしていた樚本もやがて制作に夢中になっていく。粒が密集する。フォルムがうねりを持つ。彼の手から生まれるものは、風がそよぐ様子や星の瞬く様子にも似て、不規則でありながら調和している。楽しみにしている週末の積み重ねは、彼の作風をゆっくりと変容させ続けていく。(青井美保/高鍋町美術館学芸員)

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