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高橋舞さん

作品調査

高橋 舞TAKAHASHI Mai

1991年生まれ 静岡県在住

高橋作品01
《びん》

2021年 110×110×160 ミクストメディア

高橋作品02
《青いランドセル》

2018年 220×160×100 中身不明、カラーテープ

高橋作品03
《ミッキー》

2010年 250×150×300 人形、カラーテープ

高橋舞貸出ファイル

貸出ファイル

※以下の文章は、「滋賀県アール・ブリュット全国作品調査研究」令和3年度報告書から抜粋したものです。

 高橋はモノに対するこだわり、所有欲が人一倍強い。目新しいモノ、気になったモノを手にしたい感情をコントロールできずにパニックを起こすこともある。彼女の創作物にはそんなモノへの強い欲求と執着が反映されているといえる。
 2010年ごろ彼女は施設内のさまざまな物品にガムテープを貼り始めた。自宅に持ち帰ろうとするため対応に苦慮していたところに、不要の人形や置物などを素材として提供してくれる人が現れ、その時期多くのガムテープ作品が生まれた。その頃はカラフルなテープを細かくちぎってモザイク状に貼り重ねたものが多い。2018年ごろからはテープを長いままぐるぐると巻きつけてモノを包みこむようになった。幾重にも巻きつけられたそれはテープの厚みで膨らみを帯びてフォルムや手触りを変え、最早もともと中が何だったのかわからないものもある。これらは現在300点以上になりほとんどが実家に保存されている。
 同時期から「詰め物」も始めた。これは食品などの空き容器に布や紐など細かいものを隙間なく詰め込んだもので、最近はそちらがメインになっている。出来上がった詰め物を一日中持ち歩き、時折指で弾いては音を聞くなどしている。しかしそれらの行為で必ずしも充足を得られるわけでないらしく、一時は詰める作業そのものやスムーズに運ばない時のストレスが強すぎて、ドクターストップがかけられたこともあるそうだ。
 詰め物に使う容器欲しさに不要な食品をむやみに買おうとしたり、人の持ち物を欲しがったり、夜中に外へ石を拾いに行こうとするなど、モノに対するこだわりは依然強い。「これほしい」「これはダメ」というスタッフとのやりとりが日に何度も繰り返される。そんな中施設では2016年から「貸出ファイル」が考案された。高橋が自分で「その日持って帰るモノひとつ」を決めそれをスタッフが記録し翌日返却されたらまた次のモノを貸出できる、というルールを絵と文で明確にしたものだ。スタッフと高橋がやりとりを繰り返して綴ってきたこのファイルは6冊になる。丁寧で詳しいページもあれば走り書きや何度も訂正したようなページもあり、そこに高橋とスタッフとのリアルな関係性や日々の時間が凝縮されている。
 高橋が所属する認定NPO法人クリエイティブサポートレッツでは、様々な表現活動を実現するための事業を実施している。アート活動においては特別に制作の時間や場所を設けておらず、「作品」という概念を超えて一人ひとりの多様な日常のふるまいを「表現未満、」という視点で捉えイベントなどを通じ社会に発信している。それは我々にアートとは?表現とは?という根元的な問いを投げかけてくる刺激的なものだ。
 現在、高橋が暮らすシェアハウスの一室はゲストハウスとして誰でも利用できるようになっている。今回私も滞在し、たまたま就寝前に自室で詰め物をする高橋の姿を見る機会を得た。床に置いた容器にハギレなどを次々と入れ、指先に体重をかけて押し、少しの隙間もないように詰め込む様子から彼女にとってそれがいかに必然の行為であるかが感じられた。
 詰め物は蓋が閉じられ完成すると外からはただその地層のような断面しか見ることができない。本当の意味で高橋が詰めようとしているものは一体何なのだろうか。(熊谷眞由美)

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