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作品調査

飛田 司郎TOBITA Shiro

1959年生まれ 香川県在住

《ライオンが歩いている》 

2021年 1030×730 墨、アクリル、紙

《コロナに負けんきのしたかずこ》

2020年 1030×730 クレヨン、紙

※以下の文章は、「滋賀県アール・ブリュット全国作品調査研究」令和3年度報告書から抜粋したものです。

 描かれているのは「ライオン」である。原色に近いカラフルな色を用いて粗い筆致で描いている。タイトルは「ライオンが歩いている」だという。画面右上に二つ並んだ黄色の丸が目だとすると、そちらが顔であると考察できるが、胴体や足がどれで、どのような状態であるのか、あるいはライオンは1頭なのか複数であるのか判然としない。
 調査に伺う前の情報では-と言っても昨年はコロナで動けなかったので、筆者が飛田司郎の作品調査を希望してから1年以上経っているのだが-飛田の制作は「きのしたかずこ」という架空の女性を厚塗りのクレヨンで描くというものであった。しかし、訪問時には「きのしたかずこ」シリーズではなく、彼が「アニマル」と呼ぶ動物を描くスタイルの連作に変化していた。
 飛田が制作するアトリエは、香川県善通寺市にある障害福祉サービス事業所である善通寺希望の家である。飛田は画用紙を水張りしたパネルにアクリル絵具とクレヨンで動物を描く。下半身が不自由で車椅子を使用しているせか、制作中の飛田は机に置いたパネルに肘から半身乗りかかり、その姿勢のまま素材を持ち替えて描き進める。筆者がアトリエに伺ったとき飛田は、ネコであるという新作を制作しているところであった。アトリエでは8人ほどが絵を描いており、ポップソングが流れる明るく和やかな雰囲気であった。飛田は筆者の質問に笑顔で応じながら周りを眺め、時折ふと何か思いついたように黙々と描いた。描いていたのは画面の縁に近い背景の部分で、いくつかの色のクレヨンに持ち替え色面をゆっくりと塗っていた。
 飛田は片岡鶴太郎に憧れて魚の絵などを描いていたが、2016年に描いた《笑、泣、怒の自画像》が瀬戸内芸術祭関連の展覧会で県知事賞を受賞し、そこから精力的に絵画の制作に取り組んだそうである。
 絵を描くことについて尋ねると、飛田は片岡鶴太郎、ジミー大西、岡本太郎、草間彌生の名前を出し、(彼らの作品がそうであるように)「アートは自由」と笑顔で話してくれた。アトリエで他の人が制作する姿、あるいは遠くをぼんやりと眺めながら、時折筆を進める飛田を見ていると、彼がとても居心地が良さそうにその場に居るように見えた。自分が憧れの芸術家と同じ表現の世界に属している、という喜びを感じているのだろうか。飛田にとって絵を描くことは、表現者というアイデンティティで社会と関わることができる、彼にとって心地良い自身の在り方を獲得する行為であるという印象を受けた。(今泉岳大/岡崎市美術博物館学芸員)

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