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作品調査

渡邊 義紘WATANABE Yoshihiro

1989年生まれ 熊本県在住

制作風景

《折り葉 ヘビ》

2024年 35×55×40 クヌギの葉

図1

図2

《羊》

2014年 180×215 色画用紙

※以下の文章は、「滋賀県アール・ブリュット全国作品調査研究」令和5年度報告書から抜粋したものです。

 渡邊義紘さんはすでに多くの展覧会に出品している知名度の高い作家である。また、障がいのある人の制作するアートという枠も超えて、現代アートの文脈の中で評価を受けている。つい先日も私が企画するGO FOR KOGEI展という現代アート展にも他の作家とともに出品した。
 渡邊さんの作品スタイルは大きく分けて2つある。一つは「折り葉」と呼ばれるクヌギの葉を折り紙の要領で折っていった作品である。落ち葉から成る造形物である。もう一つが、ハサミを一筆書きの要領で休みなく使い、形を切り出していく作品である。切り残った紙が動物の体の細かな表情までを表現しているのが特徴だ。二つとも繊細な仕事で、器用さと集中力が必要な作業である。動かす手と観察する目が連動していないとうまく細部を作り出すことができない。ただ、制作する渡邊さんは、いたって普通に作業を進める。そのため、私たちはそのむずかしさに気づくことが少ない。
 折り葉も切り絵も、モチーフは昆虫や魚、動物である。ネズミ、ウシ、トラ、ウサギ、ドラゴン、ヘビ、ウマ、ヒツジ、サル、トリ、イヌ、イノシシ、ゾウ、キリン、カバ、ライオン、サイ、チーター、アルマジロ、マンモス、クマなど、目の前に並んだ動物たちの名前をあげたのだが、これらをみていると人以外の生き物である。人間にはほとんど興味がないらしく、ペット化した犬や猫なども興味の対象にならないようだ。
 渡邊義紘さんは、子どもの頃から生き物が大好きだった。一度外に出ると虫取りに夢中になって帰ってこない。自分と他人との境界に無頓着だから、近所の石や植木鉢をひっくり返したりして、虫取りに夢中になっていた。時には近所の牛舎に潜り込んで日がな一日過ごしていたこともあったそうだ。
 切り絵について少し説明すると、切り絵の繊細さは、折葉と同様で、渡邊義紘さんの特徴が盛り込まれている作品なのだ。これは実際に持ってみないとわからないが、切り取られた紙、つまり生み出された動物は、どこも分かれることなく、ひとつながりにつながっている。(図1)この辺りが「一筆書きのような」と形容した特徴なのだが、手にぶら下げてみてもバラバラになることがない。どんなに切り込まれていても一枚の紙としてつながっているのだ。紙はあまりに細かすぎて互いにくっつこうとしてクシャクシャになる。厄介にくっついた細部を元に戻すのは至難の業である。我々にはできない。そんな姿を尻目に、渡邊さんはこともなげに、動物の姿を元通りに戻してしまう。(図2)
 手の込んだ切り絵も最初はシルエットだけであったようだ。「こんなものを作ってほしい」とか、「細かくしてほしい」などのリクエストを聞いているうちに、だんだんと細部が複雑になり、迫力が増していった。
 手先の器用さもさることながら、迷いなく形を作り出していける感覚は、渡邊義紘さんの目の能力だろう。どこかに記憶された動物があるように思うのだ。(秋元雄史/東京芸術大学名誉教授【執筆当時】)

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