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植野康幸さん

作品調査

植野 康幸UENO Yasuyuki

1973年生まれ 大阪府在住

植野作品01
《アイテムと女》

2020年 379×540 紙、色鉛筆、鉛筆

植野さん作品02
《アイテムと女》

2016年 390×542 紙、色鉛筆、鉛筆

植野さんの机
女性の写真、文字のアイテムなどが切り抜かれ、コラージュされている植野の机

※以下の文章は、「滋賀県アール・ブリュット全国作品調査研究」令和2年度報告書から抜粋したものです。

 植野の所属するアトリエコーナスは1981年、「障害児の親の会」からスタートし、植野も初期からのメンバーの一人である。2005年コーナスは、何かと行動を制約されることの多いメンバーたちも、創作を通し選択肢や自由を与えたいとの思いからアート活動を始めた。現在は賑やかな大通りから少し入った昔ながらの路地の町家を改装した居心地のよいアトリエで、毎日主に午前中アート活動の時間が設けられている。描く・描かない・どこで描いても何を描いても自由、あくまでその「人」自身を肯定する姿勢が貫かれ、そのなかでいくつものユニークな才能が開花している。
 植野も2005年から創作を始めている。彼がこよなく愛するのは美しいもの・女性である。それは単なる性的な対象というよりは、自分自身を美しいものの中に投影し同化させたいという意識からなのかもしれない。モデルの顔部分を自画像に置き換えたものもある。
 彼がモチーフに選ぶのはVOGUEなどの海外モード雑誌の最新ファッション、アメリカのドラマ「ミーン・ガールズ」の女優の写真、また、アニメ「セーラームーン」の絵などで、主に色鉛筆で模写する。大好きで何度も描き慣れた同じモチーフであっても毎回丹念に見て描いたり消したりを繰り返す。自分で完成のタイミングを決められずスタッフに助言されて納得することも多い。そのように描かれた女性たちはみんな強い視線をこちらに投げかけ独特の存在感を放つ。
 背景や余白部分にはプリーツスカートやハイヒールをシンプルに描いたアイコンのような小さな絵がいくつも配される。さらに活字フォントのような几帳面な字で「スカート」「赤いブーツ」「女の子」などの言葉や女優の名前なども書き加えられて紙面を埋め尽くす。お洒落な女性、ファッションアイコン、見出しやキャッチフレーズ……。彼はまるでそれらのアイテムをレイアウト・編集して自分だけのお気に入り雑誌の紙面をデザインしているかのようである。
 最近は大きな絵を描くことよりも、アニメキャラクターやアイドルの写真とともに自分が書いた文字やアイコンを切り取ったものをノートにコラージュし、より編集的な作業に熱中している。また鉄道も好きで路線や駅名を書き連ねたページもある。美しい女性たちのイメージとは対照的とも思えるが、彼の愛するものだけを集めた世界では不思議に調和している。
 アトリエの自分のスペースの壁面にもぎっしりと女優の写真や文字のアイテムが貼られていて、取材時、私たちにひとつひとつ指差して見せてくれた。そのうれしそうな表情から、自分の本当に好きなもの・宝物に囲まれていることの喜びが伝わってくる。グループホームの自室も同様にさまざまなアイテムで彩られているらしい。
 植野はこちらの話すことはほとんど理解している様だが、自身はまったく言葉を発しない。今まで筆記や身振り手振りだけで意思の疎通が図られていたが、最近はスタッフとパソコンのキーボードを使って「スカート」などの言葉を打ち込み、自分のほしい画像を検索できるようになった。そうして気に入った画像を見つけると、プリントして手元に集めたりコラージュに使ったりしている。
 国内外で多くの受賞・展示歴があり、スタッフと一緒にフランス、イギリス、香港にも旅をして自身の作品の展示を見たり、ライブペインティングを行うなど、幅広い体験の機会を得ている。(熊谷眞由美)

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